「中国市場へのアプローチは、難しくて壁が高い」 そんな風に捉えている地方自治体や企業は少なくありません。
しかし、2030年の「訪日外国人観光客6,000万人時代」を見据えたとき、年間の海外旅行者が間もなく2億人に到達するという、14億人以上の巨大な中国市場を無視することはできません。情報やデータの厳格な規制、日本とは全く異なるSNS文化という名の大きな壁——「グレートファイアウォール(金盾)」。この厚い壁の内側にある1,000万件以上のリアルタイムビッグデータをAIで解析し、日本の地方企業や自治体の救世主となっているのが、KENTOSHI株式会社(以下、KENTOSHI)です。
日中貿易の礎を築いた歴史にちなみ、「現代の遣唐使」を志向するというKENTOSHIの代表取締役・山本達郎氏。北京に8年以上滞在し、現地の熱量を肌で知る山本氏に、データの力で実現する「本物の地方創生」と「インバウンドの可能性」について、じっくりとお話を伺いました。

KENTOSHI株式会社 代表取締役 山本達郎氏
1.勘とメディアによるイメージ「日本企業の大きな勘違い」
「中国市場でプロモーションをしたいのですが、YouTubeやInstagramは使えないんですか?」 日本の事業者や自治体のDX担当者から、KENTOSHIへ最初に寄せられる相談の多くは、こうした基礎的な疑問から始まるといいます。
「日本国内や欧米向けと同じ手法でマーケティングをやろうとしても、中国だけはうまくいきません。なぜなら、使われている媒体やSNSツール、そしてデータの規制環境が全く異なるからです」と山本氏は語ります。
さらに深刻なのは、日本企業の多くが「中国市場の今」を正しく把握できておらず、思い込みや勘に頼ったビジネスを展開してしまっている現状です。
「よくあるのが、悪気なく『日本と同じものをそのまま出しておけば喜ぶだろう』と考えてしまうケースです。中には、アパレルや消費財の企業で、去年の型落ち商品や在庫処分品を『中国なら売れるだろう』と持って行こうとされるケースもあります。ですが、そのようなリスペクトに欠ける姿勢はすぐに向こうの消費者にバレてしまいます。もし私たちが日本にいて、海外のブランドが『日本人はこの程度でいいだろう』と古い在庫を持ってきたら買いたくありませんよね。それと同じです。そうした姿勢のせいで、参入する前に嫌われてしまう企業が少なくないのです」
なぜ、これほどまでに日本のビジネスパーソンは中国市場のリアルを捉え違えてしまうのでしょうか。その背景には、データではなく「日本のマスメディアが報じるネガティブなニュース」を鵜呑みにしてしまう傾向があります。
「テレビや新聞では『中国の景気が大減速している』『訪日客が激減した』といったニュースが大きく報道されがちです。しかし、それらは視聴率や部数のために、あえて悪い部分が切り取られている側面があります。北京に駐在していたテレビや新聞の記者たちと話したときも、『実は現場はそんなに悪くないと記事を書いて上に送っても、本社のデスクで跳ねられてしまう』と嘆いていました。視聴者や読者が求めている通りの“悪いニュース”に差し換えられてしまうのです。だからこそ、私たちは『なんとなくの空気感』ではなく、客観的なデータに基づいて市場を正しく捉え直すことが何よりも重要だと考えています」
2.厚い壁の内側を可視化する、リアルタイムビッグデータの衝撃
中国では現在、企業のWebサイト(ホームページ)はほとんど見られていません。日本であれば「LP(ランディングページ)を作ってWeb広告をかけ、検索から問い合わせにつなげる」というパターンも存在しますが、中国は完全に「SNSベース」で社会が回っています。消費者の行動も情報収集、口コミ確認、問い合せ、決済、購入、訪問にいたるまで、すべてがSNSの中で完結する文化です。
KENTOSHIが展開するインバウンド支援サービス【GREAT WALL】は、まさにその中国独自のSNS生態系から、生きたデータを抽出する画期的な仕組みを持っています。
「中国には約11億人のインターネットユーザーがいます。私たちは、中国版Instagramと呼ばれる『RED(小紅書)』をはじめ、主要SNSからテキスト・画像・動画を含む累計1,000万件以上のリアルタイムデータを分析しています。一般的なデータサービスは、数ヶ月前の『過去の静的なデータ』をレポート化するだけのものが多いですが、変化のスピードが凄まじい中国市場ではそれでは手遅れになります。私たちは政府部門とのネットワークも活用しながら、今まさに何がトレンドなのか、消費者が何を求めているのかという『リアルタイムデータ』を可視化し、企業の迅速な意思決定を支援しています」
この膨大なデータをバックボーンに持つからこそ、KENTOSHIは従来の常識を覆す破格のサービスを提供できています。例えば、中国3大SNSと言われるRED、WeChat、Weiboのアカウントを運用代行する場合、日本国内の大手代理店では月額100万円近くのコストがかかることも珍しくありません。しかしKENTOSHIでは、最新のAI技術とビッグデータを駆使することで、月額10万円という手軽なコストで3大SNSの運用を全てカバーしています。
「日本で誰もが知る有名な企業であっても、中国では知名度が高くなく、SNSに真面目に会社紹介や商品紹介をただ投稿するだけでは、月に数十回しか見られないということがザラにあります。それでは効果が出ませんし、寂しい結果となってしまいます。そこで私たちは、AI分析から導き出した『現地ユーザーが本当に知りたい目線』で情報をまとめ、記事を作成・投稿しています。さらに、毎月最低でも5,000回以上の閲覧を約束する『効果保証』をつけて運用を代行しているため、コストを最小限に抑えながら、確実に壁の向こうへ情報を届けることができるのです」

3.毎日のように予約が殺到!データが導いた劇的な成功事例
データの力によって、中国人消費者の「ペルソナ(顧客像)」を解き明かし、情報を的確に届けた結果、日本の多くの店舗やサービスが劇的な成果を上げています。
その一つが、客単価3万円以上という黒毛和牛の焼肉店です。東京、宇都宮、そして香港にも店舗を構えていますが、「もっと中国人観光客を増やしたいというお悩みをお持ちでした。そこで私たちは、単に『美味しい焼肉です』とアプローチするのではなく、データ分析から『彼らがなぜ日本の牛肉を求めているのか』を深掘りしました」
KENTOSHIは、山形牛を例に挙げ、「寒暖差が激しい地域で育つため、霜降りがきめ細やかで口どけが良い」「部位によって焼き方や食べ方が異なる」「秘伝のタレのこだわり」といった、現地の食通が求めるディープな情報を徹底的に発信しました。
「すると、REDなどのSNSから毎日のようにダイレクトメッセージ(DM)やコメントで『○月○日のディナーは空いていますか?』と問い合わせが入るようになったのです。自社で展開している専用の予約サービスをご案内すると、彼らは使い慣れていない日本の予約サイトを経由することなく、SNSからダイレクトにコース予約をして、そのまま『WeChat Pay(微信支付)』や『Alipay(支付宝)』で事前決済まで済ませてくれます。事前にお金が支払われるため、日本の飲食店が最も恐れる『無断キャンセル(ノーショウ)』の心配もありません。今では、ほぼ毎日、2人〜4人組の富裕層や個人旅行客が途切れることなく来店されており、オーナー様も大変驚かれています」
さらに、少し珍しい事例では「ヘリコプターの遊覧飛行サービス」もあります。 「1回あたり数十万円かかるラグジュアリーな体験というイメージがありますが、遊休ヘリを活用することで2, 3万円で楽しめるというサービスがあり、1,000万人以上のフォロワーを持つ中国の旅行系プロブロガー(インフルエンサー)と連携しても魅力を発信しました。そして、毎月のSNS運営でも『富士山を上空から15分間一望できる特別な体験』として打ち出したところ、週に約80件のメッセージが寄せられる等、毎週何十件もの問い合わせが殺到するようになりました。面白いのは、SNSのコメント欄の中でユーザー同士が『私は何月何日に乗る予定だけど、一緒に乗って4人で割り勘にしませんか?(1人あたり2万円になるため)』と、勝手に相乗り募集を始めてコミュニティ化してしまったことです。中国の圧倒的な人口規模とSNSの爆発力を、データを通じて実感した瞬間でした」

4.秋田県が証明したデータ活用の地方創生
KENTOSHIのデータ活用が最も真価を発揮したのは、自治体ならではの課題を抱えていた「秋田県の観光プロモーション」の事例です。
いわゆる東京・富士山・箱根・京都・大阪を結ぶインバウンドの王道「ゴールデンルート」から遠く離れた秋田県。交通の便も含め、初めて日本を訪れる外国人にとってはアクセスが容易ではない地域です。自治体の観光部門担当者も、「中国に14億人もの人口がいても、そもそも誰が秋田県なんかに興味を持ってくれるのか分からない」と頭を抱えていたといいます。
ここで、KENTOSHIはビッグデータとAIを用いた徹底的なターゲティング(絞り込み)を行いました。
「初めて訪日する人が、いきなり秋田に行く確率はあまり高くありません。そこで私たちは、データを駆使して『過去に5回以上日本を訪れている超リピーター』であり、『3ヶ月以内に訪日旅行を具体的に計画している人』、さらに『北京・上海・広州・深圳といった、可処分所得が極めて高い一級都市に住む20代〜30代のSNSアクティブユーザー』という、極めてピンポイントなグループを特定しました」
ターゲットを絞り込んだ上で、秋田県側から提供された様々な観光コンテンツの中から、データ分析によって「中国人に確実に刺さるスポット」だけを厳選。現地の著名な旅行系インフルエンサーを招聘し、3日間にわたって秋田県内を巡ってコンテンツを制作しました。発信先も、REDやWeibo、WeChatだけでなく、中国版TikTokである「抖音(Douyin)」、さらに現地の大手旅行専用OTA媒体である「馬蜂窩(Mafengwo)」や「携程(Ctrip)」など、網羅的に展開しました。
「馬蜂窩などは日本の口コミサイトとは熱量が違い、テキスト1万文字、写真100枚以上という膨大な体験レポートをスクロールが止まらないほどびっしり書き込む文化があります。そこに秋田のディープな魅力を落とし込みました」
結果、秋田県が当初計画していた目標値を遥かに凌駕し、閲覧数は2倍弱となる580万回を突破。さらに驚くべきは、コメントの質の高さでした。
「『景色が綺麗』『行ってみたい』といったありきたりな感想ではなく、『秋田犬が可愛いので、どこに行けばなでられますか?』『きりたんぽというグルメを初めて見たので、食べてみたい』『なまはげは子供が怖がりそうだけど、どんなお祭りなのか』といった、コンテンツに深く踏み込んだ熱量の高い具体的なコメントが800件以上も寄せられました。中には『来月行くので、現地のハイヤーの電話番号を教えてほしい』『仙台空港に降りてから秋田までは新幹線でどう移動すれば一番早いか』という、訪問に直結する問い合わせが溢れたのです」
この先進的なデータ活用の成果は、「毎日新聞」や「共同通信」などの大手国内メディアでも大きく報道され、その後、英語圏や香港のメディアへも波及。地方自治体がインバウンドを成功させるための“切り札”として、今も全国から大きな注目を集めています。

5.伝統はコピーできない。「そこだけのコト」が刺さる
山本氏は、地方自治体や地方の老舗企業こそ、中国インバウンド市場において最強の武器を持っていると力説します。
「今の中国の消費者は、どこでも買える有名な化粧品やブランド品などの『モノ消費』には飽きています。彼らが今、熱狂的に求めているのは、現地のその場所でしか体験できない『コト消費』であり、そして、その日に水揚げされたばかりの呼子の透明なイカ、水揚げ解禁日の富山湾のホタルイカ、この日に現地でしか食べられない海鮮丼など『トキ消費』なのです。また、伝統産業の聖地である岡山のデニム工場へ行き、ものづくりの歴史を見て、その場で試着して購入する。こうした『今だけ、ここだけ、自分だけ』の特別な体験こそが、データ分析から見えてくる最も強いニーズなのです」
さらに、地方の企業が持つ「歴史の長さ」そのものが、海外から見れば莫大な付加価値になります。
「日本には創業100年、200年という老舗企業が当たり前のように存在します。しかし中国は、戦後の建国以降に企業が生まれているため、100年続く民間企業というものが存在しません。そのため、現地の富裕層からすると『200年も続いている製品や食べ物ってどういうことなんだろう?』と、それだけでロマンを感じ、強い興味をそそられるのです。どんなに最新のテクノロジーを使っても、歴史という時間だけは追い抜けません。日本の地方が当たり前だと思っている古い街並みや伝統、景観こそが、データの世界では最強のキラーコンテンツになり得るのです」
政治的なニュースによって「中国人は日本を嫌っているのではないか」という不安を抱くビジネスパーソンもいますが、山本氏は「データを見れば、それも杞憂であることが分かります」と笑います。
「中国の人は、プライドやメンツを非常に大切にするため、歓迎されていない場所(例えばトランプ政権以降、ぎくしゃくしているアメリカなど)にはあまり行きたがりません。一方で、彼らが行きたい国ランキング、買いたい製品ランキングでは、常に日本がトップクラスに位置しています。『政経分離』と言われ、政治的な問題と、個人の消費行動を完全に切り離して考えているのです。『政府はああ言っているけれど、日本の四季は美しいし、ご飯は美味しいし、治安も良いから自分は行くよ』と、富裕層や個人旅行客は今もたくさん日本に来ています。隣国同士、政治の波は定期的にありますが、データを見て民間レベルで正しく切り分けて付き合うことが、お互いの利益につながるのです」
6.聖地巡礼から文化輸出へ——KENTOSHIが描く未来
手軽なAI・データ活用の口コミ拡散サービスを軌道に乗せたKENTOSHIは、すでに次の未来を見据えています。それが「IP(知的財産)支援」と「文化・情報の相互アップデート」です。
「日本の優れた人物やアニメ、ドラマといったIPを、ショートドラマなどの映像作品を通じて中国、そして世界へ広げるプロジェクトを加速させています。たとえば、世界中に多くのファンを持つ、ドリブルに特化したサッカー指導者の『ドリブルデザイナー・岡部将和氏』の中国向け公式SNSの全面サポートを今月からスタートしました。世界で累計2億回以上の動画再生数を誇る彼のコンテンツを、中国独自の多様な動画プラットフォーム(抖音など)へ一気に横展開し、ワールドカップの盛り上がりとも連動させていきます」
KENTOSHIが目指すのは、単なる動画の再生数アップではありません。映像コンテンツを通じて、日本の地方のファンになってもらう仕組みづくりです。
「例えば、様々なIPのコンテンツ舞台として日本の様々な地方を巡りながら、現地のグルメや文化を楽しみ、コンテンツを配信することで、映像を見た海外のファンが『この綺麗な場所はどこだ?』と興味を持ち、やがて地方への『聖地巡礼(観光)』へとつながっていく。そんなポジティブなサイクルを生み出したいと考えています。まさに文化の輸出であり、情報の循環です」
おわりに:ハードルを上げず、まずはデータの海に一歩を
インタビューの最後に、データ活用やインバウンド施策に踏み出せない全国の自治体・企業の担当者へ向けて、山本氏から温かいエールをいただきました。
「メディアの印象だけで『中国市場は怖そう、難しそう』とハードルを上げてしまうのは、非常にもったいないことです。向こうの消費者は、皆さんが持っている素晴らしい地域の魅力を『まだ知らないだけ』であり、情報を喉から手が出るほど求めています。
今は、昔のように何百万円、何千万円もの予算をかけなくても、私たちの【GREAT WALL】のように、最先端のAIとビッグデータを駆使して、月10万円から手軽に、かつピンポイントにアプローチできる時代です。まずは難しく考えず、情報発信をして『壁の向こうの反応を確かめてみる』ことから始めてみませんか? データを見れば、皆さんの地域や商品がどこで、誰に刺さるのかが必ず一目で分かります。2030年の観光大国時代に向けて、ぜひ私たちと一緒に、データという羅針盤を持って、新しい一歩を踏み出していきましょう!」
勘や偏見に惑わされず、リアルタイムデータという確かな事実に基づいて市場を捉え直すこと。それこそが、地方が持つ眠れる資産を世界へ解き放ち、「誰もが場所にとらわれずに活躍できる地方創生」を実現するための、確実な一歩となるはずです。
【取材協力】KENTOSHI株式会社
AIとビッグデータを活用した日中間のマーケティング、インバウンド支援、越境EC展開を行うリーディングカンパニー。主要SNSの運用代行サービス【GREAT WALL】シリーズをはじめ、事前決済型の独自予約システムの提供や、日本のIP・文化を海外へ輸出する映像コンテンツ事業など、多角的に日中間のビジネスを支援している。
企業サイト:https://www.great-wall.cloud/









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