検索エンジンに媚びる「詩のない世界」に、クリエイティブの光を。AI時代のWebサイトを「デジタル登記簿」へと作り変えるハビタスの挑戦

ハビタス様インタビュー38

地方自治体や企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれて久しい昨今。しかし、現場の担当者からは「必死にWebサイトを更新し、アクセス数(PV)を追いかけているのに、本当に届けたい人に情報が届いていない」「問い合わせは増えたが、ミスマッチな内容ばかりで現場が疲弊している」という悲鳴が上がっています。

過去10年、私たちが信奉してきた「SEO(検索エンジン最適化)」や「集客至上主義」というマーケティングモデルは、本当に地方を、そして企業を豊かにしたのでしょうか。

「今のWebサイトは、機械(検索エンジン)に媚びた、説明文だらけのチラシに変質してしまいました。本来の美しさや情緒、企業のこだわりといった『詩(ポエム)』が失われてしまったのです」

そう静かに、しかし熱を込めて語るのは、有限会社ハビタスの代表・森 幸久氏です。

ハビタスが提唱するのは、Webサイトを単なる宣伝ツールから、AIという新たな社会インフラに対して自らの実存を証明する「デジタル登記簿」へと生まれ変わらせる、全く新しいデータ活用アプローチです。AIが自然言語で人間の問いに答える時代、地方自治体や企業が生き残るための「情報の主権」の取り戻し方について、じっくりとお話を伺いました。

有限会社ハビタス 代表取締役 森幸久氏

1.哲学から始まったWeb制作への違和感と、AIの衝撃

ハビタスの設立は2002年9月にまで遡ります。代表の森氏は、大学院で哲学を専攻し、将来は大学の教員を目指していたという、ビジネスの世界としては少し異色のバックグラウンドを持っています。しかし、知人らと会社の真似事を始めたことをきっかけに、90年代末からWeb制作の最前線に身を投じることになりました。

デジタル領域の黎明期から20年以上にわたりWeb制作の世界を見つめてきた森氏ですが、近年盛り上がりを見せていた従来のデジタルマーケティングのあり方には、強い問題意識を抱いていました。サイトを作ること自体の本質的な価値が、見失われつつあると感じていたからです。

「かつてのWebサイトは、もっと自由で個性に溢れていました。社長が自慢げに会社の成り立ちを語り、デザイナーやコピーライターは『この会社をどう表現すれば一番魅力的に見えるか』と腕を競い合っていた。決して、単なる集客の道具ではなかったんです」

しかし、SEOの台頭によって状況は一変します。検索上位を狙うために、無理やりキーワードを散りばめた説明的な文章が量産され、デザインもスマートフォンの普及や効率性を重視した結果、どれも似たり寄ったりの画一的な構造(グリッドデザイン)に収斂していきました。

「記事を大量生産し、リンクを買い集める。そんな仕様に縛られた結果、Webサイトから『血の通った表現』が消えてしまった。そんな違和感を抱えていたときに出会ったのが、生成AIの登場でした」

森氏は、AIの挙動を観察する中で、ある決定的な事実に気が付きます。「AIはキーワードで検索しているのではない。人間の曖昧な文脈(コンテキスト)を読み取って答えているのだ」ということです。そして、この技術こそが、長年クリエイターや企業を縛り付けてきた「機械への過剰な配慮」からWebサイトを解放する鍵になると確信したのです。

2.「ハルシネーション」と「口コミの恐怖」から組織を守る防衛力

多くのデジタルマーケティング会社は今、これまでのSEOと同じ文脈で「これからはAIに引用されるためのLLMO(大規模言語モデル最適化)が必要だ」「あなたの会社の知名度を上げ、集客を増やします」と謳って新たなサービスを販売しています。しかし森氏は、こうした既存のビジネスモデルに強い警鐘を鳴らします。

「AIに引用されようとして、これまでと同じようにフリーライターへ記事を大量発注し、キーワードだらけの提灯記事を量産することは、企業や自治体にとってむしろ致命的なマイナス要素を生み出します」

なぜなら、ネット上に似たような、かつ微妙に内容が揺らいでいる情報が溢れかえると、AIはどれが正確な情報なのか混乱してしまうからです。その結果、AIがもっともらしい嘘を出力する「事実誤認(ハルシネーション)」を引き起こし、住民や顧客への誤案内、ひいては組織の信頼失墜という深刻なリスクに直面することになります。

さらに恐ろしいのは、AIが「空白」を嫌うという性質です。

「AIは人間に質問されたら、何が何でも答えようとします。もしWebサイト内に公式な情報が不足していれば、AIは外部の非公式な口コミサイトなどを見に行き、そこにあるネガティブな噂や過去の書き込みを拾ってきて『あなたが調べている企業には、こんな悪い噂があります』とダイレクトに回答してしまうのです」

実際にハビタス自体の社名でテストした際にも、過去の退職者が残した古い書き込みをAIが拾ってくる現象が起きたといいます。外部のサイトを消去することは不可能です。では、どうすればいいのか。

森氏が導き出した答えが、データの構造化による「デジタル登記」でした。

「裏側のデータ構造(JSON-LD)の中に、『2025年に体制を変更し、現在はこのような従業員ケアを行っている』というタイムスタンプ付きの正確な『一次情報(ファクト)』を記述したのです。すると、AIはそれをオフィシャルな最新情報だと正しく判断し、古い噂を回答として出力しなくなりました。つまり、自分たちの生の姿、嘘偽りのない事実をただ正しく伝える。これこそが、AI時代における究極の『防衛力』になるのです」

3.Webサイトの二重構造がもたらす新しい価値

ハビタスが提供するサービスの核は、単に裏側のコード(構造化データ)を実装することだけではありません。最大の強みは、人間向けの「情緒(Substance)」と機械向けの「論理(Structure)」を明確に切り分け、その双方を往復しながら設計・管理する「翻訳プロセス」にあります。

財務情報における「XBRL」や、建築業界における「BIM」のように、Webサイトにおいても「AIが正確に読み取るための共通フォーマット」を持つことは、今やビジネスインフラとしての必須要件です。

「表側のデザインやキャッチコピーは、人間の心を動かすために思い切りクリエイティブで、尖った表現にすればいい。その代わり、裏側にはAIが誤読しないよう、冷徹なまでに説明的な論理データをがっちりと配置しておく。この二重構造を作ることができれば、Webサイトは再びクリエイターたちの表現の場として復権できるのです」

森氏は、過去に日本の広告大賞を席巻した遊園地『としまえん』の有名なキャッチコピー「史上最低の遊園地」を例に挙げ、この翻訳プロセスの重要性を説明します。

「もし今、Webサイトのトップページに『史上最低の遊園地』とだけ書かれていたら、旧来の検索エンジンや知識の浅いAIは、言葉通りに『評価の低い最悪の施設』と解釈してしまうでしょう。しかし、裏側の構造化データの中に、『これは夏のプールの水温が非常に低く、涼しく快適に過ごせることを意味するスローガンである。実際の施設は練馬区にあり、家族向けのプールを複数有している』と説明的に登記しておけば、AIは正しく文脈を理解します。そしてユーザーが『夏休みに、どこか涼しく過ごせるプールはないかな』と尋ねたときに、的確にとしまえんを推薦できるようになるのです」

このように、表側の情緒的なアプローチを裏側の論理的データで支えることで、Webサイトは機械に説明する義務から完全に解放されます。

4.中小企業や地方都市が輝く「Fact & Not」の意思決定

このデジタル登記を進める上で、経営者や自治体の担当者が迫られる最も重要な意思決定があります。それが、組織の「Fact(何者であるか)」と「Not(誰をターゲットにしないのか)」を明確に定義することです。

これまでのWebマーケティングは、少しでも多くのアクセス(PV)を集め、無差別に問い合わせの母数を増やすことが正義とされてきました。しかし、訪れた人のうち、実際に顧客やファンになる割合は統計的にわずか3%以下だといいます。残りの97%は、自社にマッチしない、あるいはとんちんかんな問い合わせであり、その対応に地方の限られた人的リソースが割かれることは大きな損失です。

「あるクライアントの企業で、ミスマッチな問い合わせに悩まされているところがありました。そこで、トップページに社長の熱い想いの丈を綴った長い文章を配置し、それを最後まで順番に読み進めないと次のページに行けないという、従来のマーケティングの常識からは外れた本のようなサイトを作ったのです。もちろん、裏側には完璧な構造化データを登記しました」

結果はどうだったでしょうか。サイト全体のPVは確実に減少しました。しかし、AIがその会社の特性(何をして、何をしないのか)を深く理解したため、AI経由で訪れるユーザーの質が劇的に向上したのです。

「数(PV)を捨てることで、質(マッチング精度)を取る。AIが優秀なコンシェルジュとして、本当にその会社を必要としている人だけを連れてきてくれるようになります。『夜11時まで開いていて、割引シールの貼られたじゃがいも』を探している人に、地方のこだわり抜いた産地直送の農家をAIは紹介しません。それは農家側にとっても、イオンのような大企業に埋もれることなく、本当に自分たちの価値を認めてくれる顧客とだけ誠実につながることができる、大きなメリットなのです」

森氏は、この「何をやらないか」という輪郭をはっきりさせるアプローチこそ、地方の中小企業に圧倒的に有利な戦い方であると断言します。何でもできる大企業は、AIにとっても特徴が薄まりがちですが、尖った個性を持つ地方の組織こそ、正しくデジタル登記を行うことで、空間やドメインパワーの壁を越えて世界に見出されるチャンスが生まれるのです。

5.地方自治体が今すぐ取り組むべき次世代のアクセシビリティ

このハビタスのデータ活用アプローチは、地方企業だけでなく、全国の自治体や公共機関にこそ今すぐ必要な「基礎工事」です。

行政組織のWebサイトを訪れると、誰もが一度は目にする膨大なPDFファイルの山。森氏はこれを「PDFの墓場」と表現します。

「間違いがあってはならないという『無謬性』への強い執着から、行政のサイトは紙の書類をそのままスキャンしただけの画像データPDFがバンバン上がっている状態です。しかし、このような機械可読性のないデータは、AIにとって存在しないも同然であり、全く理解できません」

現在、デジタル庁も「法令API」や「機械可読性」の重視を強く推進しています。住民がChatGPTやGoogleのAI Overviewなど、どのAIエージェントを介して質問したとしても、常に正確な公的サービス情報にたどり着けるようにすることは、行政のガバナンスにおける急務であり、これこそが次世代の「アクセシビリティ」の担保に他なりません。

「まずは、そのPDFの山をAIに一度すべて読み込ませ、要約や見出しを自動生成させた上で、行政サービス単位の適切なセクションへ振り分け直す。 shadow、そして、その入り口に正しく構造化データを『翻訳・登記』してあげるのです。そうすることで、AIの誤案内による窓口の混乱や住民への不利益を未然に防ぎ、地域の信頼をデジタル空間で守り抜くことができます」

ハビタスが目指す未来は、表面的な言葉だけを取り繕う小手先のDXや、「バズる」ためのハックを競い合う世界ではありません。自治体や企業が、PVという「数字の回し車」から降りて、自らの固有の価値を正しく主張し、住民や顧客との誠実なコミュニケーションを実現できる、透明性の高いデジタル社会の実現です。

「しがない(詩がない)世界に愛(AI)の言葉を」。

一見、ありがちな言葉遊びのように思えるこのスローガンの裏には、データエンジニアリングという冷徹な論理の土台を築くことで、人間らしい、血の通った美しい言葉やデザインをもう一度デジタル空間に取り戻すという、深い哲学と未来への確信が込められていました。

生成AI時代の到来を前に、自らの情報を守り、本当に届けたい相手に正しい声を届けるための基礎工事を、今、あなたの地域や組織でも始めてみませんか。

【取材協力】有限会社ハビタス

2002年9月設立。20年以上にわたりWeb制作・コンサルティングの最前線に立つ有限会社ハビタス。代表の森幸久氏が持つ哲学的なバックグラウンドを基盤に 、近年は生成AIの台頭を見据えた「表側の情緒」と「裏側の論理構造(構造化データ)」を両立させる独自のWeb再構築・コンテンツ戦略を提唱 。機械に媚びない美しい表現を守りながら、AI検索時代における企業や自治体の「正しい実存(ファクト)」をデジタル空間に登記する先駆的な取り組みを進めている。
企業サイト:https://habitus.co.jp/