全国の地方自治体や企業で叫ばれる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。しかしその現場では、「何から手をつければいいのかわからない」「形だけのデジタル化で満足してしまい、業務改善の実感がない」という深い悩みに直面しています。
そんな地方のボトルネックを打ち破るべく、沖縄の離島・伊平屋村(いへやそん)で画期的な挑戦が始まっています。
今回お話を伺ったのは、単なる技術者支援に留まらず、顧客の問題解決にコミットするAI・DXパートナーとして知られる株式会社エーエルジェイのDXソリューション事業本部で本プロジェクトを牽引する福嶋将氏です。
伊平屋村に根ざしたDXパートナーとして、現場に徹底的に伴走する形で「自治体職員のリスキリング支援」を実践しています。「目指すのは、単に資格を取らせることでも、高級なシステムを納品することでもありません。そこで働く人たちの意識を変え、最終的な地域の『成果』にコミットすることです」と語る福嶋氏。顔の見える関係を築き上げ、役場のアナログな文化から地域全体のITリテラシー向上へと波及させていった、生々しくも熱いデータ活用のプロセスに迫ります。

株式会社エーエルジェイ DXソリューション事業本部 本部長 福嶋将氏
1.離島の役場で目撃したアナログ文化
エーエルジェイグループが自治体向けのITリテラシー向上支援へと舵を切った背景には、グループを挙げた「地方創生・地域活性化」への強い想いがありました。地域に根ざした活動を模索する中で、沖縄の人脈を通じて紹介されたのが、沖縄本島からフェリーで渡る孤高の離島・伊平屋村でした。
役場の内部には強固な「紙の文化」が根付いており、稟議を通すためには幾つもの部署を回り、課長や部長から直接印鑑をもらうという、昔ながらのワークフローがそのまま残っているケースが多々見られました。デジタル化という言葉は浸透していたものの、多くの職員が業務の非効率さに気づきながらも、具体的な改善に向けた取り組みはなかなか進まない状況でした。
2.一人の熱意への共感から始まった「自治体リスキリング」
しかし、その中で一人、強烈な危機感を抱いている人物がいました。それは、伊平屋村の出身ではなく、沖縄県のIT推進を担う外郭団体から村役場へ赴任してきた職員でした。
高いITリテラシーを持つその職員は、役場内のアナログな体制に強い課題感を持ち、「このままではいけない」と周囲に声を上げ続けていました。福嶋氏はこの強い熱意と課題感に深く共感し、「自分たちが持つITの技術力とエデュケーションの強みを活かせば、この状況を劇的に変えられるはずだ」と決意。2025年8月、伊平屋村役場職員を対象とした、全く新しいリスキリングの取り組みがスタートしたのです。
現在、国や自治体による「企業向けのリスキリング補助金」などの支援策は数多く存在しますが、地方自治体の役場職員そのものを対象としたリスキリングへの予算配分や教育基盤は、全国的にも極めて弱いのが実態です。伊平屋村での挑戦は、まさに日本全国に1,700以上存在する地方自治体(特に地方・離島の自治体)が抱える、共通のブラックボックスに風穴を開ける先駆的な試みでもありました。

3.試験合格はゴールではない。「実務」に置き換えるカリキュラム
エーエルジェイ様が伊平屋村に提供した最初のカリキュラムは、国家資格である「ITパスポート」の取得を目指すものでした。ITパスポートは、経営戦略(ストラテジ)からシステム企画、セキュリティ、ネットワークまでを包括的に学べ、デジタル社会のベースとなる基礎知識を養うには最適な指標となります。
しかし、「明日からITパスポートを勉強しましょう」と提案したところで、現場の職員に強い苦手意識や抵抗感が生まれるのは当然のことです。特に、専門用語の羅列やプログラムへの理解などは初めて勉強する職員にとって大きな挫折ポイントになります。
「抵抗感は非常に大きかったですね。ただ、地方や離島には本屋すらない環境であり、教育の場そのものが不足しているという『地域格差』があったのも事実です。機会さえ提供されれば、若い職員を中心に『実は興味があった』と前向きに食らいついてくれる土壌がありました」
伊平屋村役場には意外にも20代の若い職員が多く、彼らは「この村に貢献したい」という高い意識を持っていました。福嶋氏らは、彼らの熱意を削がないよう、カリキュラムの提供方法と「解説の質」に徹底的にこだわりました。
4.Google Classroom活用とデータ可視化が生んだ「小さな奇跡」
具体的な学習基盤には「Google Classroom」を採用し、オンラインでも受講可能、かつ学習データの可視化ができる仕組みを構築しました。週に2回のオンライン講義と、月に1回の現地での直接講義を組み合わせ、1回1時間の講義の中で徹底的に模擬演習を解いてもらうスタイルをとっています。
「単に『この問題の答えはこれです』とテキスト通りに解説するだけでは知識として吸収されません。私たちの目的は資格を取らせることではなく、実務に落とし込んでもらうことです。そのため、解説の際には必ず『役場の中の仕事』や『実際の自治体でのシステム発注事例』に当てはめて説明するように気を使いました」
アルファベットの頭文字を使ったIT特有の専門用語についても、それが役場のどの定型業務や住民向けサービスと結びついているのかを丁寧に紐解いていきました。この結果、データとして収集している模擬試験の平均点は着実に右肩上がりで伸びていっています。
さらに、この地道な教育は、予想もしない形ですぐに実務への成果を生み出し始めました。講義の合間に職員から寄せられた「議会の議事録や広報誌の編集に毎回ものすごい時間がかかっている」という相談に対し、福嶋氏は生成AI(ChatGPT等)の具体的なプロンプトを作成して伝授。目の前で一瞬にして文章の要約が完了したのを見た職員たちは、「こんなことまでできるんですね!」と感動し、役場内でのAI活用の意識が急速に高まり始めています。
5.泡盛を酌み交わし、島に溶け込む泥臭いコミュニケーション
これほどまでに外部のIT企業が地域に深く受け入れられ、信頼を獲得できた背景には、福嶋氏らが実践した「徹底的なドブ板のコミュニケーション」がありました。
「東京から毎月必ず一週間は伊平屋村の現場に通い、毎週オンラインでも顔を出して会話を続ける。島には居酒屋が少ないので、『誰さんの家で飲んでるから来いよ!』と声がかかれば飛び込んでいき、島のお酒(泡盛)を夜通し酌み交わしました。そうして同じ目線に立ち、泥臭く顔を売り、時間を共有することこそが、地域と仲良くなるための何よりのプロセスでした」
離島という教育格差や地域格差が存在する環境だからこそ、この誠実な歩み寄りが島民の心を動かしました。今では、島を訪れるたびに「遠いところからわざわざ来てくれて本当にありがとう」と、心からの感謝を告げられる強固な絆が生まれています。
6.役場から学校へ、島外を巻き込む「インターンシップ」への発展
伊平屋村でのリスキリングの波紋は、役場の壁を越え、島全体、そして未来を担う次世代へとダイナミックに波及していきました。
親である役場職員からの「子供たちのITリテラシーやセキュリティを高めてほしい」という切実な相談を受け、福嶋氏はすぐに村の教育委員会へとアプローチし、小中学生向けのITセキュリティ授業を実現させました。
ChatGPTは『チャッピー』と呼ばれ、子どもたちの間でもすでに日常の一部になりつつありました。この新しいテクノロジーを未来の武器にしてもらうため、正しいITリテラシー教育と、本質的な使い方を教えるプログラムを実践しました。その一環として、AIを正しく活用する具体的な方法を学ぶため、Geminiを使ってオリジナル缶バッジのデザインに挑戦。ツールに使われるのではなく、自分のアイデアを形にする相棒としてAIを使いこなす、子どもたちの柔軟な可能性が光る時間となりました。
現在では「子どもたちを支えるためにも、まずは保護者自身がITへの理解を深める必要があるのではないか」という声が先生方から上がり、保護者向けのIT講習会の開催までもが計画されています。
▼ 伊平屋島プロジェクトのリアルな歩みはこちらからご覧いただけます
- 伊平屋島プロジェクト1(伊平屋村の課題と未来への挑戦)
- https://www.al-j.co.jp/salon/project
- 伊平屋島プロジェクト2(伊平屋村職員向けIT教育プロジェクト)
- https://www.al-j.co.jp/salon/10151106
- 伊平屋島プロジェクト3(伊平屋中学校でのAI授業)
- https://www.al-j.co.jp/salon/20260227-2

7.「成果にコミットする」新時代のAI・DXパートナーが見据える未来像
エーエルジェイ様が伊平屋村との間に結んでいる任期は3年間です。現在のITパスポート研修という「教育」のフェーズは、彼らが描く壮大なグランドデザインのほんの「第一歩」に過ぎません。福嶋氏が最終的なゴールとして見据えているのは、研修を受けた職員たち全員が「村の課題を解決し、新しい行政システムを通すための、データに基づいた提案企画書を自分自身で書けるようになること」です。
「多くの自治体職員が、日々目の前の定型業務(ルーティンワーク)だけに追われ、新しい施策を企画する発想や時間を持てずにいます。私たちは今後、役場内にGeminiやNotebookLMといった最新のAI活用ツールを本格的に導入し、定型業務を徹底的に自動化・システム化していきます。そうして生み出された時間を活用して、職員の皆様に『住民の満足度を上げるための新しい企画』を立案してもらう。そのためのベースとして、ITパスポートの習熟度が重要な指標になってくるのです」
さらにその先には、真のデータドリブンな意思決定の基盤作りを見据えています。 税金を使って運営される自治体という組織が、本当に住民のためになっているのかを測るため、今後は「住民サーベイ(満足度調査)」のデータ収集・可視化を検討しています。防災計画の策定や市営施設の設備充実など、市民活動に直結する施策を行うためには、議会での決議と予算取りが不可欠です。
その際、「なんとなく必要だと思う」という勘ではなく、「市民サーベイの結果、〇〇%の住民がここに課題を感じている。このシステムを導入すれば、これだけの効果が出る」という客観的なデータを議会に提示できれば、決議の施行においてこれ以上ない強力なエビデンス(証拠)となります。
エーエルジェイ様は、伊平屋村で構築しつつあるこの伴走型のモデルを、同じようにアナログな体制に苦しむ日本全国の地方自治体へ向けて「横展開可能なパッケージ」として構築していく構想を抱いています。
「システムを納品したら終わり、研修を実施したら終わり、というこれまでのIT業界の常識を私たちは変えたい。システムや教育を導入した後に、自治体の職員のリテラシーがどう上がり、住民向けサービスの質や村民の満足度がどう向上したのか。自治体が本当にやりたい『最終的な結果(成果・インパクト)』にまで、泥臭く一緒に伴走し、コミットしていく。それこそが、私たちが目指すこれからのIT企業(システム開発会社)の姿です」
おわりに:熱意の人材とデータの武器で、地域を動かす
これからDXに取り組もうとしている、あるいは「何が課題なのかすら整理がつかない」と悩んでいる全国の自治体や企業の担当者に対し、福嶋氏は「まずは目的と方法論を切り離し、ボトルネック(真の課題)を正しく捉えることから始めてほしい」と語ります。
例えば役場でよくある「部署移動」の際、引き継ぎ資料やマニュアルの作成だけで期末前の貴重な2ヶ月間を費やしてしまうような問題も、そのボトルネックを正しくデータとして捉え、「資料作成時間を短縮し、4月からの走り出しをスムーズにする」という目的を明確にすれば、自ずと導入すべきシステムやAIの形は見えてきます。
「データには無限の可能性が秘められていますが、それを活かせるかどうかは、結局のところ『使う人間』次第です」
地方創生を本当の意味で進める原動力は、外から買ってきた高級なソフトウェアではなく、地元に根付いて働く人々のリスキリングと熱意、そして地域を愛する心に他なりません。その熱意に客観的なデータの「武器」を持たせ、地域を、そして日本を中から変えていく。
株式会社エーエルジェイ様が離島の地で証明しつつある、泥臭くも最先端のデータ活用アプローチは、デジタルへの一歩を踏み出せずにいるすべての自治体DX担当者やビジネスパーソンの未来を、力強く、明るく照らし出しています。
【取材協力】株式会社エーエルジェイ
DXコンサルやWEB開発、クラウド、IoTなどの確かな技術力で企業の変革を支えるシステム開発会社。 特に「自治体DX」やAIを活用した「地方創生・地域活性化」に注力し、地域の課題に深く入り込む支援を行う。 単なるシステム導入にとどまらず、現場の意識改革や次世代のリテラシー教育まで共に歩む、新時代のAI・DXパートナー。
企業サイト:https://www.al-j.co.jp/













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