担い手が減り、長年培われてきた技術や知恵を次の世代へ渡すことが難しくなる。地域では当たり前になっている価値が、外部に十分伝わらない。日々の業務に追われ、新しい挑戦に踏み出す時間をつくれない。
地域の現場には、一つの事業者や地域の中だけでは解決が難しい課題が積み重なっています。
2026年7月28日、「港区×神石高原町 共創DAO」のキックオフイベントが開催されました。神石高原町の事業者が、地域で続けてきた営みや現在の課題、これから実現したいことを伝え、都市部の参加者が自分の経験やスキルとの接点を考える場です。
当日は、神石高原町で事業を営む5社が登壇。それぞれの現場から生まれた共創テーマを手がかりに、地域と都市がどのように一緒に取り組めるのかを考えました。

なぜ港区と神石高原町が連携するのか
神石高原町は、広島県東部の山間部に位置する自然豊かな町です。農業、日本酒、味噌、こんにゃくなど、地域の風土と人々の知恵によって育まれてきた産業や文化があります。
一方で、人口減少や少子高齢化が進み、事業や技術、地域文化を次の世代へ引き継ぐ担い手が不足しています。地域の中だけでは解決が難しい課題も増えています。
キックオフの冒頭で神石高原町の入江嘉則町長は、都市部の人材に神石高原町を一方的に助けてもらうのではなく、地域の資源や知恵と、都市部人材の経験や専門性を掛け合わせ、新しい価値を一緒につくりたいという期待を示しました。
港区側からプロジェクトを支える港区立産業振興センターの西岡篤史 副センター長からは、企業や専門家、クリエイターなど、多様な人材が集まる港区の力を地域の実践に生かすことの意義が語られました。
神石高原町に暮らす人にとっては当たり前になっている風景や営みも、外からの視点が加わることで、まだ知られていない価値として捉え直せるかもしれません。
都市と地域の異なる視点を掛け合わせることが、このプロジェクトの出発点です。

地域の課題に、外から答えを持ち込まない
今回の共創DAOは、地域の課題に対して、都市部の人が完成した答えを持ち込む仕組みではありません。
地域事業者が大切にしてきたものや、これから実現したいことを知り、対話を重ねながら、一緒に取り組むテーマを見つけていきます。
都市部人材が持つ企画、デザイン、広報、マーケティング、AI・ITなどの経験と、地域事業者が持つ現場の知恵、技術、文化、資源を掛け合わせ、地域に必要とされる事業へ育てることを目指します。
最初から高度な専門性や完成した事業案を用意する必要はありません。それぞれが持つ経験や関心も、対話に参加する入口となります。

5社から提示された共創テーマ
キックオフの中心となったのが、神石高原町で事業を営む5社によるリレートークです。
それぞれの事業者から、仕事の背景、大切にしてきたこと、現在直面している課題、外部の人材と一緒に取り組みたいことが紹介されました。
神龍味噌株式会社——手仕事を守るために、業務を見直す
神龍味噌株式会社は、地域で受け継がれてきた手づくりの味噌を製造しています。
人の手で丁寧に仕込む味噌づくりを続ける一方、注文の処理や在庫管理といった日常の事務作業が、本来の味噌づくりに向き合う時間を圧迫しています。
そこで、大切にしてきた顧客との関係や手仕事は変えず、AIやデジタルを活用して業務の負担を軽くすることを目指します。
また、オンライン味噌教室を通じて、味噌を仕込み、発酵を待つ時間までを参加者と共有し、発酵文化や地域との継続的な関係を育てることもテーマになっています。
手仕事を守り続けるために、手仕事以外の負担を見直す取り組みです。

神石食品有限会社——在来こんにゃくの価値を次の世代へ
神石食品有限会社が展開する「WADAMA」は、神石高原町の在来種こんにゃく芋を使ったこんにゃくづくりを続けています。
栽培にも加工にも手間がかかる一方、その製法や商品としての価値は、まだ十分に知られていません。
そこで、こんにゃくの新しい食べ方や商品の背景を伝えるメディアをつくり、継続的にファンとつながることを目指します。
さらに、神石高原町を実際に訪れ、地域の人と出会い、手を動かしながら学ぶ体験プログラムも構想されています。
こんにゃくを商品として届けるだけでなく、地域全体の魅力に触れる入口として捉え直す取り組みです。

神石エコファーム——現場で培った堆肥の技術を他地域へ
神石エコファームの池田博信氏は、地域資源の有効活用をきっかけに、堆肥づくりと地域資源循環に取り組んできました。
長年の試行錯誤から生まれた堆肥化や土づくりの技術を、神石高原町の中だけで完結させず、他の地域でも活用できる形にしていくことを目指しています。
同時に、池田氏が現場で培ってきた判断やノウハウを整理し、次の担い手が学べる形にすることも重要なテーマです。
技術を届ける方法と、その技術を次世代へ伝える方法。その両方を地域外の人材と一緒に考えていきます。

三輪酒造株式会社——酒蔵の物語を、次の出会いへ
三輪酒造株式会社は、神石高原町で長く日本酒づくりを続けてきた酒蔵です。地域の気候や水など、自然の力を生かしながら日本酒「神雷」を醸しています。
一方、日本酒を飲む機会が減る中で、酒の味だけでなく、その背景にある地域の風土や蔵人の考えをどのように伝えるかが課題となっています。
今回のテーマでは、リーフレットなどを見直し、三輪酒造と「神雷」の物語を、初めて知る人にも伝わる形へ再編集します。
日本酒と酒蔵文化を次の世代へ残すため、新しい出会いの入口をつくろうとしています。

planning office kikuchi——新聞配達網を地域の生活インフラへ
planning office kikuchiの菊地永史氏は、神石高原町でこれまでの仕事を続けながら、新聞
販売所を引き継ぎ経営しています。
現場では配達員の高齢化や担い手不足が進み、従来の新聞配達だけで事業を維持すること
が難しくなっています。
しかし、毎日地域を巡る新聞配達網は、住民の暮らしの変化に気づくことができる、地域
に根差した生活インフラでもあります。
この配達網を見守りや新しい地域サービスに生かせないか。増加する空き家への対応を、
地域の仕事や新しい人とのつながりに発展させられないか。新聞配達の枠を越えた、持続
可能な事業の形を探ります。
なくなりつつある事業としてではなく、地域に残すべき生活インフラとして捉え直す取り
組みです。
まず動いているのは、空き家の片付け事業です。スタッフの売り上げ減少を解消するため
、その具体的な第一歩としてスタートさせました。

変えたくないものを守るために
5社の事業内容はそれぞれ異なります。しかし、その背景には共通する課題がありました。
一つ目は、長く受け継がれてきた営みを、次の世代へどう残すかという課題です。担い手が減る中、これまでと同じ方法を続けるだけでは、事業や技術そのものを維持できなくなる可能性があります。
二つ目は、地域では当たり前になっている価値が、外部に十分伝わっていないことです。手仕事にかかる時間、地域の自然を生かした製法、住民との日常的な接点、現場で蓄積された経験。外から見ると大きな価値があるものも、地域の中にいると特別なものとして認識しにくいことがあります。
三つ目は、守るべきものと、変えられるものを分けることです。
味噌づくりの手仕事を守るため、日常業務を効率化する。酒蔵の文化を残すため、伝え方を見直す。在来こんにゃくを次世代へつなぐため、メディアや体験をつくる。新聞配達網を維持するため、新しい役割を考える。堆肥の技術を広げるため、経験知を学べる形にする。
伝統を守ることと、すべてを昔のまま続けることは同じではありません。
変えたくないものを守るために、変えられる部分を見直すこと。それが、5社から提示された共創テーマに共通していました。

共創を一度きりで終わらせない仕組み
今回のプロジェクトでは、参加や貢献といった活動の履歴をバッジとして残すために、LINEミニアプリを活用していきます。
今回の共創DAOにおいて、デジタルは目的ではありません。地域事業者と都市部人材が継続的に関わり、それぞれの経験や貢献を積み重ねていくための手段です。
地域の人の言葉に触れ、関わってみたいと感じること。その共感から始まった関係を具体的な行動へつなぎ、継続させるために、デジタルの仕組みを活用します。

キックオフ後、共創はどう進むのか
キックオフは、地域事業者と都市部人材が出会う最初の機会です。ここで紹介された共創テーマは、今後の対話や活動の出発点となります。
参加者は、関心を持ったテーマや自分の経験・スキルをもとに、地域事業者の抱えるテーマ(課題)に参加します。そのなかで、事業者が抱える課題の背景や、これから実現したいことへの理解を深めていきます。
その後は、テーマごとのチームを形成し、必要に応じて神石高原町を訪れるフィールドワークや、アイデアを具体化するための試行へ進みます。
すべてのテーマで、すぐに完成した事業をつくることが目的ではありません。地域事業者と都市部人材が一緒に考え、小さく試しながら、地域に必要な事業や継続的な取り組みへ育てていくことを目指します。
「共感」を、具体的な活動へ
今回のキックオフを通じて見えてきたのは、地域の課題を外部の人材に委ねるのではなく、地域と都市の双方が経験や知恵を持ち寄り、取り組み方を一緒に探していく必要性です。
地域事業者の言葉に触れ、その背景にある思いを知る。そこで生まれた共感を、対話への参加や現地での活動、具体的な試行へつなげていく。キックオフは、そのための入口となりました。
一方で、出会いや共感だけで、継続的な共創が生まれるわけではありません。地域と都市が対等な立場で関わり、双方にとって意味のある関係をどう育てていくのかが、今後の重要なテーマになります。
キックオフ後半のクロスディスカッションでは、神石高原町の入江嘉則町長と、港区立産業振興センターの西岡篤史副センター長が、そのために必要な考え方を語りました。
そのなかで西岡副センター長から示されたのが、「共感から共創へ」という言葉です。
後編では、この言葉を手がかりに、地域の課題を自分事として捉えることの意味と、都市と地域が継続的な関係を築くために必要なことを考えます。
後編(以下リンク)へ続く
「共感から共創へ」——都市と地域が対等な関係を築くために|港区×神石高原町 共創DAO開催レポート【後編】

関連リンク:港区×神石高原町 共創DAO 特設サイト













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