人口減少、人手不足、そしてとどまることを知らない原価の高騰。日本の地方において、生活インフラの要である食品スーパーがいま、かつてない逆風にさらされています。かつての「作れば売れる」「出店すれば客が来る」という右肩上がりの時代は遠い過去のものとなり、限られたパイを競合と奪い合う過酷な環境下で、地方企業はどう生き残るべきか。その問いに対し、30年以上にわたり小売業に特化してPOSデータ分析ソリューションを提供してきたデータコム株式会社は、明確な答えを提示しています。
同社がいま提唱するのは、単なる「売上データ」の可視化に留まりません。従業員の特性や状態といった「人のデータ」までを統合し、現場の「働きがい」と「収益」を両立させる、新しい地方創生の形です。今回は、同社の新垣高寛氏に、データ活用が地方企業の「武器」に変わる瞬間と、その先に描くビジョンについて、一歩踏み込んだお話を伺いました。

データコム株式会社 営業本部 本部長 新垣高寛氏
1.魚市場の受発注から始まった、32年間の「現場主義」
宮城県仙台市に本社を置くデータコム株式会社。そのルーツを探ると、意外にも「魚」という極めてアナログで変化の激しい現場に辿り着きます。創業のきっかけは、仙台市中央卸売市場における仲卸業者の受発注管理システムでした。
新垣氏は、当時の苦労をこう振り返ります。魚の仕入れは、その日の水揚げによってサンマが大量に獲れる日もあれば、しけで何もない日もある。工業製品のように型番で管理できるものではなく、マスター化が非常に難しい領域でした。この「データ化しにくい生鮮現場」を起点に、どうすれば現場の人々が迷わず使えるシステムを作れるか。この問いに向き合い続けたことが、同社の強みの原点となっています。
その後、同社は食品スーパー向けにPOSデータの分析パッケージを展開していきますが、その根底にあるのは「すべての人の挑戦をデータで支える」というミッションです。創業から20年ほどは「どの商品が、どの店舗で、なぜ売れているのか」を可視化し、いかに売上を伸ばすかという単品分析が中心でした。しかし、この10年で地方小売業を取り巻く環境は激変しました。
市場が縮小し、従来の延長線上では「勝てない」時代。そこでデータコムが目をつけたのは、売上という「結果」だけでなく、それを生み出す「プロセス」や「人」にフォーカスしたデータ活用でした。
2.データの壁は「技術」ではなく「組織の分断」にある
地方の小売企業がデータ活用に踏み出す際、多くの経営者が「分析できる人材がいない」「ITリテラシーが低い」ことを理由に挙げます。しかし、新垣氏の見解は異なります。真の障壁は技術的な問題よりも、むしろ「組織の分断」にあるというのです。
多くの地方スーパーでは、本部のバイヤー、店舗の店長、そして売り場を支えるパートスタッフの間で、見ている指標や情報の解釈がバラバラです。また、ベテラン社員の「勘と経験」は非常に尊いものですが、それが属人化しているため、若手への継承がうまくいかず、組織としての成長が止まってしまう。
「現場の店長やバイヤーは、決して分析の専門家ではありません。日々の品出しや接客、トラブル対応で手一杯な彼らに、複雑な操作が必要なツールを渡しても、結局は使われなくなってしまいます」と新垣氏は指摘します。
だからこそ、データコムのソリューションは「分析の難しさ」を徹底的に排除しています。システム側が専門用語を現場の言葉に翻訳し、普段の商売の文脈で「次に何をすべきか」が直感的にわかるインターフェースにこだわっています。ツールを「新しい仕事」として増やすのではなく、包丁やレジと同じように、商売に欠かせない「道具」として日常に溶け込ませること。この徹底した現場目線が、全国150社以上の導入実績を支える信頼の証となっています。

サービス紹介▶https://www.datacom.jp/solution/retail-view/
3.「売上」と「人」を繋ぎ、離職率を劇的に改善する
今回の取材で最も衝撃的だったのは、売上データに従業員の「適性や状態」といった人材データを掛け合わせるという同社の先進的な取り組みです。
小売業、特に食品スーパーにおいて最大の経営課題の一つは「離職率の高さ」です。新垣氏によれば、一人の正社員が離職した際、その欠員を埋めるための求人広告費、採用活動にかかる人件費、そして新しい人材が戦力になるまでの教育コストを合算すると、一人あたり約250万円もの損失が生じると言います。
「年商500億円規模の企業であれば、離職率をわずか数パーセント改善するだけで、年間で1億円規模の利益改善につながる可能性があります。これは、売上を数十億円伸ばすことに匹敵するインパクトです」
同社では、従業員の性格や適性をデータで可視化し、どの店舗で、どのような上司のもとで、どんな特性を持つ人が活躍しているのかを「人材適正分析」という形で展開しています。例えば、ある店舗で離職が続いている場合、それが教育体制の問題なのか、それとも人員配置のミスマッチなのかをデータで突き止めます。
「これまでは『最近の若手は根性がない』といった精神論で片付けられていた問題が、データによって『この適性の人には、こうしたコミュニケーションが有効だ』という具体的な対策に変わります」
これは、人手不足に悩む地方企業にとって、単なるコスト削減以上の意味を持ちます。「人を増やす」ことが難しい時代だからこそ、「今いる人材をデータの力で活かしきり、長く働いてもらう」。これこそが、地方創生における持続可能な企業運営の核心と言えるでしょう。

4.現場のパートスタッフが「商売人」に変わる瞬間
データの活用は、決して経営層や本部だけの特権ではありません。データコムが支援する現場では、パートスタッフの方々が自らデータを見て、生き生きと働く姿が見られます。
ある店舗では、前日に自分が工夫して陳列した商品の売れ行きを、翌朝パートスタッフが自ら確認することが習慣化しています。「自分のアイデアでこれだけ売れた」「隣の店舗に負けて悔しい」。数値として結果が明確に出ることで、単なる「作業」としての品出しが、自らの意思を込めた「商売」へと昇華します。
新垣氏は、データがもたらす最大の恩恵は「挑戦への後押し」だと語ります。勘だけに頼っていると、失敗した際に「なぜダメだったのか」がわからず、次第に新しい挑戦をためらうようになります。しかし、データがあれば「この仮説は違ったけれど、この層には響いていた」という納得感が得られます。この「納得感」こそが、現場の働きがいを醸成し、組織全体の活力を生み出す源泉となるのです。
5.競合店に「勝たずとも、負けない」戦い方
地方のスーパーマーケットがいま直面しているのは、全国規模で展開する大手ディスカウントストアやドラッグストアによる「低価格攻勢」です。資本力で劣る地方企業が、価格競争で正面から戦えば疲弊する一方です。
「競合店が出店し、自店の売上が前年比80%まで落ち込むような絶望的な状況。そこからどう立て直すかが、私たちの真骨頂です」と新垣氏は力説します。
ある成功事例では、顧客データを詳細に分析した結果、競合店に流れた客層と、それでも自店を支持し続けてくれている客層が明確に分かれていることが判明しました。 「全ての客を呼び戻そうとするのではなく、自店にとって最も大切な『離してはいけないお客様』を特定し、その方々に響く販促や品揃えにリソースを集中させました。その結果、売上は前年比99%まで回復しました。大手チェーンにすべての面で勝つ必要はありません。データを使って、自分たちが絶対に負けない領域を特定し、そこで確実に守り抜く。この『賢い戦い方』を身につけることが、地方企業の生存戦略です」
おわり:地方の未来を、生成AIと「伴走型支援」で切り拓く
データコムは現在、生成AIを活用した次世代の分析機能の開発にも注力しています。これまでのようにユーザーが自らグラフを読み解くのではなく、AIが「今週は〇〇のカテゴリーで異常値が出ています。原因は〇〇の可能性が高いため、△△の対策を打ってください」と、自然な言葉で提案してくれる世界を目指しています。
これにより、分析のハードルはさらに下がり、地方のあらゆる企業が「データサイエンティストがいなくても、データを武器にできる」環境が整いつつあります。
しかし、新垣氏が最後に強調したのは、テクノロジー以上に重要な「伴走」の精神でした。 「地方の企業様からは、よく『何から手をつけていいか分からない』という、非常に抽象的なご相談をいただきます。私たちはシステムを売って終わりではありません。お客様の商売をどう具現化し、どう角度を上げていくか。そのプロセスに伴走し、現場でデータが使いこなされるまで徹底してサポートします」
地方には、まだデータ化されていない、長年培われた「商売の知恵」が山のように眠っています。その知恵をデジタルの力で呼び覚まし、地域の生活を守り、人々の挑戦を支えていく。データコムが描く未来は、冷たい数字の羅列ではなく、温かな人の営みを最大化させる「血の通ったDX」そのものでした。
最初から完璧なシステムを構築する必要はありません。まずは小さな「成功体験」をデータで作ること。その一歩が、地方の未来を劇的に変える大きなうねりとなっていくはずです。
【取材協力】データコム株式会社
本社:宮城県仙台市青葉区 事業内容:小売業向けデータ分析ソリューションの提供、人材データ活用支援、経営コンサルティング
企業サイト:https://www.datacom.jp/














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