地域の“見えない価値”を可視化し、資金・人材・信頼が循環する地域経済へ―サステナブル・ラボが挑む、非財務データによる地方創生

サステナブル・ラボ様インタビュー31

「データを活用できる世界をつくることで、社会を良くしたい」――。データエンジニアリングの力で社会課題の解決を目指し、リモートワークの推進や地方創生に力を入れる株式会社データ・エージェンシーのオウンドメディア『Data for Japan』。

今回のインタビューにお迎えしたのは、AIとビッグデータを融合させ、環境や社会、企業の持続可能性を示す「非財務データ」の可視化で日本の経済構造に革新を起こそうとしているサステナブル・ラボ株式会社の代表取締役・平瀬錬司氏です。

地方に眠る優れた企業の“見えにくい価値”を共通のデータという「ものさし」に変え、地域金融や自治体の施策へと接続していく同社の取り組み。その背景にある熱い想いから、データ活用がもたらす地方創生のリアルな成功事例、 そして平瀬氏が描く未来の地域社会の姿まで、深くお話を伺いました。

地方創生に必要なのは、地域の価値を外から決めることではありません。すでに地域に存在している環境、人的資本、地域貢献、企業文化、ガバナンスといった“見えにくい価値”を、金融機関・自治体・企業・人材が共有できる形に翻訳することです。サステナブル・ラボは、非財務データをそのための共通言語として整備し、資金・人材・信頼が循環する地域経済の実現を目指しています。

サステナブル・ラボ株式会社 代表取締役 平瀬錬司 氏

1.企業の「稼ぐ力」と「社会への優しさ」を測る新しいものさし

サステナブル・ラボは2019年に創業し、東京・大手町の金融イノベーション拠点「FINOLAB(フィノラボ)」にオフィスを構える、非財務データとAIに特化したデータサイエンス企業です。業務委託などを含め約50名のプロフェッショナルが集う同社が目指すのは、いわば「帝国データバンクのソーシャル(社会性)版」を構築することです。

なぜ今、企業の「社会性」をデータ化する必要があるのか。代表の平瀬氏は、現代の経済社会が抱える構造的な課題を、独自の温かみのある言葉で切り出します。

「企業には、お金を稼ぐ力である『強さ』と、人や社会への配慮である『優しさ』の二つの側面があると考えています。しかし現在のビジネス社会には、利益や財務指標といった『強さの物差し』は無数にある一方で、企業がどれだけ社会や人に貢献しているかという『優しさの物差し』がほとんど存在していませんでした。私たちは、その優しさの物差しを作り、投資や融資、取引先選定、さらには若者の就職先の選定など、あらゆる場面でそのデータが使われる社会を創りたいのです

この問題意識の原点は、平瀬氏がかつて京都で10年ほど経営していた農業ベンチャーでの経験にあります。当時、持続可能な農業の仕組み作りに奔走する中で、地域に根ざし、従業員や社会の幸せを本気で追求している「優しい企業」が日本中にたくさん存在することを知りました。

しかし、一歩東京の経済の中心地へ行くと、そこでは「強さ(財務的な利益)」という言語しか話されない現実に直面します。金融機関との対話においても、どれだけ地域社会に貢献していようとも、財務諸表という共通言語の前ではその価値がないがしろにされてしまう。地域の素晴らしい企業の価値や、“見えない価値”が社会に十分に伝わっていない――。この強い問題意識について、平瀬氏はこう強調します。

地域の価値は、もともと地域の中に存在しています。私たちが行いたいのは、その価値を外から決めることではなく、これまで伝わりにくかった価値を、資金提供者・取引先・求職者・行政などに届く形へ翻訳することです。

渋沢栄一の説いた『論語と算盤』、あるいは平瀬氏の言葉を借りれば『ロマンと算盤』『道徳と経済』のバランスが、あまりにも経済一辺倒に傾きすぎているのではないかという強烈な違和感と原体験が、同社のサービス開発の着想へと繋がっていったのです。

2.「非面識経済」の限界をデータで突破する

さらに平瀬氏は、都市化とデジタル化が進んだ現代を「完全な非面識経済」の時代であると分析します。

古き良き地域の共同体、たとえば田舎のタバコ屋さんであれば、「何丁目の誰さんの息子」というお互いの顔や背景見える「面識経済」が成り立っていました。そこではお釣りへの配慮や、地域コミュニティ内での助け合いといった「心」が通い、過度な暴走を防ぐ一定の統制が自然と効いていました。しかし、大都市を中心とする現代の経済は、顔の見えない「非面識経済」です。効率性は極限まで高まったものの、マニュアル的な対応が横行し、他者への想像力や心が失われがちになり、結果として人々を不幸にしている側面が見えてきました。

「非面識経済の中に、いかにして『面識性(ぬくもりや信頼関係)』を織り込んでいくか。その過渡期において、私たちは『データ』を新たな共通言語として活用し、人と企業、地域を繋ぎ直す挑戦をしています」

データやAIは、ともすれば人間を効率性の檻に閉じ込め、振り回してしまう危険性も孕んでいます。事実、テクノロジーの進化によって私たちの業務は高度化したものの、処理できる情報量が増えた結果、皮肉にもかつてより忙しくなっている側面もあります。

だからこそ、サステナブル・ラボが何よりも重視しているのは「物語(ナラティブ)とエビデンス(データ)の融合」です。人間や企業が「どうありたいのか」という信念や物語がまず根底にあり、それを社会に説明し、効率的に前進させるための武器としてデータを使う。この主従関係を違えないことこそが、同社がデータサイエンスを扱う上での確固たる哲学となっています

3.決算書に載らない価値を可視化する「共通のものさし」

では、サステナブル・ラボが提供するサービスは、具体的にどのようなデータを収集・分析し、企業の意思決定を支援しているのでしょうか。

同社が扱う「非財務データ」を一言で表現するなら、「決算書や財務諸表には載っていない、その企業の持続可能性や特徴、社会から愛されている度合いの尺度」です。
非財務データは、地域や企業の価値を一方的に決めるものではありません。むしろ、これまで見過ごされてきた環境・人的資本・地域貢献・ガバナンスなどの取り組みを、金融機関、自治体、企業、投資家が同じ土俵で対話するための共通言語にするものです。

具体的には、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)のESG観点から、温室効果ガス排出量やエネルギー使用量、人的資本(従業員の定着率や教育投資、多様性)、労働安全衛生、地域社会との関わり、コンプライアンス体制など、従来は定性的な「エピソード」として語られがちだった項目を、客観的に比較・対話可能なデータへと整理していきます。

同社のプロダクトラインナップは、この難解になりがちな非財務データを、専門知識のない企業でも直感的に扱えるよう設計されています。

  • TERRAST(テラスト):AIとビッグデータをフル活用した、国内最大級の非財務データバンク。企業の潜在的な価値を照らし出す。
  • T4E(TERRAST for Enterprise) / T4M(TERRAST for Management):主に中堅・中小企業のESG関連業務のDXを支えるSaaS。約40項目のシンプルな入力だけで、現状の課題を特定できるESGスコアレポートを自動生成する。
  • TERRAST powered by Uniqus:国内のSSBJ基準や欧州のCSRDなど、高度化するグローバルな開示基準にも対応する最先端ソリューション。

【スコアやAIの位置づけ】
・AIやデータを用いて、これまで見えにくかった情報を整理・比較可能にする
・スコアは対話の入口であり、最終判断そのものではない
・定量データと現場の文脈を組み合わせることで、より納得感のある意思決定を支える

もちろん、データは万能ではありません。地域の価値は、数字だけで測りきれるものではない。だからこそ、定量データと現場の文脈、定性情報を組み合わせ、対話の出発点として活用することが重要です。
従来のデータ管理といえば、社内に点在するExcelシートを手作業で集計したり、個別のヒアリング中心で運用されたりすることが一般的でした。そのため、項目定義がバラバラで、他社との比較や客観的な分析が極めて困難でした。

これに対しサステナブル・ラボのサービスは、一般社団法人サステナビリティデータ標準化機構(SDSC)が策定する標準的なハンドブックに完全準拠しています。データ入力から可視化、診断、スコアリング、 そして金融支援の実務やサプライチェーンのESG調達までを一気通貫で繋ぐことで、中小企業であっても過度な負担なくサステナビリティ経営への一歩を踏み出せる仕組みを実現したのです。

企業の「時間軸」を未来へと伸ばしたとき、直近の決算書だけで50年、100年先も存続できる会社かどうかを見極めることはできません。しかし、どれだけ従業員を大切にしているか、どれだけ地域社会との「関係資本(エンゲージメント)」を築けているかという非財務データを見れば、その企業の本当の持続可能性が浮かび上がってきます。

非財務データを社会実装するうえで重要なのは、単にデータを集めることではなく、比較可能な形に整えることです。企業ごと、金融機関ごと、自治体ごとに定義が異なれば、せっかくの情報も意思決定に使いにくい。だからこそ、データの尺度や定義を整える標準化が、地方創生の基盤になります。

4.地方自治体・地域金融と連動する、データ活用のリアルな成果

データが「共通のものさし」として機能し始めたことで、すでに日本の地方都市では、企業の経営改善に留まらないダイナミックな波及効果(インパクト)が生まれ始めています。

たとえば地域金融機関にとって、融資先企業の非財務情報を把握することは、単なるESG対応ではありません。地域企業の強み、課題、成長余地を発見し、対話し、必要な支援につなげるための入口になります。非財務データは、地域企業と金融機関の関係を「審査」だけでなく「伴走」に変えていく可能性があります

特に象徴的な事例として平瀬氏が挙げたのが、岩手県矢巾町(やはばちょう)における、自治体・地域金融機関・サステナブル・ラボの3者連携による取り組みです。

矢巾町では、町内企業のサステナビリティ経営を強力に推進するため、岩手銀行とサステナブル・ラボが密に連携し、同社の『T4E』を活用した施策を展開しています。町内企業が非財務データを入力して自社の経営状態を可視化し、その結果をもとにサステナブル経営の推進度をスコアリングします。 そして、一定の基準を満たした優れた企業を、矢巾町という自治体が公式に「表彰」する仕組みを構築したのです。

表彰された企業は町のホームページ等で広く一般に紹介されるだけでなく、企業の努力と価値を証明する「デジタルバッジ」の付与も予定されています。これにより、これまで「地域のために本当に良い取り組みをしているのに、周囲にうまく伝わっていなかった中堅・中小企業」が、自治体からの客観的な評価と発信というバックアップを得て、採用市場や取引先に対して圧倒的な説明力を強みとして持てるようになりました。

「矢巾町の表彰式に集まる地域の経営者の方々は、東京の経営者とは良い意味で全く違います。東京では『日本全体をぶち上げる』という壮大な視点を持つ方が多い一方で、地域の経営者の方々は『この矢巾という地元を幸せにしたい』『地元の雇用と人間を何より大切にする』という、地域への強烈な愛着と信頼関係を持たれています。まさに『シンク・グローカル(Think Global, Act Local)』を体現されている。そうした企業こそ、経営陣に若手や女性を積極的に登用するなど、意思決定の柔軟性と多様性を備えているケースが非常に多いのです」

さらに、この標準化された非財務データは、地域金融のインフラそのものを変えつつあります。

栃木県信用保証協会の「サステナブル経営推進保証制度」では、SDSCのハンドブックに準拠した非財務情報を活用し、サステナブル経営に積極的な中堅・中小企業に対して低い保証料率で資金を供給する仕組みが始動しています。また、福井銀行のサステナブル融資スキームや、鳥取銀行の「とりぎんサステナビリティ・スタート・ローン」など、非財務データはもはや単なる評価のための提出書類ではなく、融資や保証という「金融支援の実務」に直接組み込まれる時代に突入しています。

データがあるからこそ、地域金融機関は事業性評価の精度を高めて企業に伴走でき、自治体は実態に基づいた効果的な表彰・認証制度を設計でき、地場サプライチェーン全体の底上げへと繋がっていくのです。

5.データが拓く未来像「令和の面識経済」

平瀬氏が見据える「データ活用×地方創生」の究極の未来像は、地域のあらゆるステークホルダーが非財務データをインフラとして共有し、お金も人も仕事も地域内でより良く循環する社会です。

「私たちが目指すのは、データの力によって『令和の面識経済』を再構築することです。これまでは顔が見えないために財務の数字だけでドライに判断されていた関係を、非面識な現代のネットワーク上にデータの可視化を通じて『この企業はこれだけ人を大切にし、地域の環境を守っている』という信頼や共感を復活させる。企業の価値や商品の背景にある優しさがデータとして誰もが知っている状態になれば、消費者は『この地域のために頑張っている企業の商品を買おう』、求職者は『30年安心して家族を養えるこの会社で働こう』という意思決定ができるようになります

人手不足が深刻な地方都市において、人材育成や多様な働き方、地域への貢献といった非財務面の取り組みをデータで証明することは、企業の採用力や従業員の定着率に直結します。また、脱炭素やエネルギーコストの高騰に悩む地域であれば、省エネへの取り組みを可視化することで、優先的な行政施策や低利の金融支援と結びつける強力な武器になります。事業承継や伝統産業の継承という文脈でも、数字に表れにくい歴史的な技術やコミュニティとの信頼関係をデータ化することの意義は極めて大きいと言えます。

現在、このデータプラットフォームに強い関心を寄せ、参画を進めている主体の一つが、全国の地域金融機関です。

地方銀行や信用金庫もまた、「従来の金貸しの手法のままで、これから先の地域経済を支えていけるのだろうか」という深い危機感を抱いています。しかし、いざサステナビリティ支援や伴走型経営を始めようとしても、ノウハウがわからない、専門人材やリソースが圧倒的に足りないというジレンマに直面しています。サステナブル・ラボは、その難解な専門領域をテクノロジーと標準化されたデータによって補完し、金融機関が地域企業を真に支援するための強力なエンジンを提供しているのです。

おわりに:完璧を目指さず、「共通項目」で現状を見つめることから

最後に、これからデータ活用やDXに取り組もうと考えている、あるいは一歩を踏み出せずに悩んでいる全国の企業・自治体の担当者に向けて、平瀬氏から非常に心強いメッセージをいただきました。

「情報があふれ、AIによってあらゆる加工や処理が可能になったこの時代だからこそ、独自の非財務データは企業や地域にとって最大の『資産』になります。

これから取り組まれる皆さまに一番お伝えしたいのは、『最初から完璧な体制を目指さなくてもよい』ということです。サステナビリティやデータ活用というと、横文字が多くて難解な開示基準をすべてクリアしなければいけないように感じて身構えてしまうかもしれません。しかし、本質はそうではないのです。

まずは、身近な共通項目を使って、自分たちの今の状態をありのままに見える化してみる。そこから、社内の従業員や、社外の金融機関、取引先との新しい対話を始めること。それだけで十分です。

サステナビリティデータは、誰かに評価されたり、格付けされたりするためだけのものではありません。自分たちの見えざる強みを再発見し、未来に向けた経営の意思決定の質を高めていくための、何より温かい資産なのです。まずは小さな可視化から、地域の未来を変える一歩を踏み出していただきたいと思います。
非財務データは、企業や地域を序列化するためのものではありません。見過ごされてきた努力や可能性を、必要な相手に届く形にするためのインフラです。地域企業、金融機関、自治体、投資家、求職者が同じ情報を見ながら対話できるようになったとき、地方創生はスローガンから実装へと進んでいきます。

【取材協力】サステナブル・ラボ株式会社

AIとビッグデータを活用した非財務データ(ESG・サステナビリティデータ)の可視化・分析プラットフォーム「TERRAST」「T4E」などの開発・提供、およびサステナビリティ経営・データ活用に関するコンサルティング・データサイエンス事業。
企業HP:https://suslab.net/