家族の「見えない負担」をデータで解く。株式会社ハハカラが挑む、地方創生と「夫婦協働」の新しいカタチ

ハハカラ様インタビュー18

地方における「人口減少」や「人材流出」は、自治体や企業にとって避けては通れない格段に優先度の高い課題です。その解決の鍵として、多くの組織が「女性活躍」や「子育て支援」のスローガンを掲げていますが、制度を整えるだけでは解消されない、家庭内の「根深いブラックボックス」がそこには横たわっています。

「育児を愛情や根性といった精神論で片付けるのではなく、客観的な『データ』として扱うべき」

そう語るのは、株式会社ハハカラの代表取締役 片田櫻子氏です。同社が提供する、親子の生活とデータを繋ぐWebアプリ『OYA.NOTE(オヤノート)』は、これまで可視化されなかった家事・育児タスクを「共有データ」に置き換え、夫婦を一つの「チーム」へと変容させる画期的なソリューションです 。

今回は、片田氏へのインタビューと、宇都宮市で実施された実証実験データ(2026年1月報告)を通じ、家庭内データの可視化がいかにして企業の人的資本経営を支え、地方創生の未来を切り拓くのか、その核心に迫りました 。

株式会社ハハカラ 代表取締役 片田櫻子氏

1.出産で直面した「育児の理不尽」を次世代に残さない

ハハカラの創業には、片田氏自身の切実な原体験があります。

「最大のきっかけは、私自身の出産体験にあります。娘が生まれたとき、仕事と育児の両立における『見えない負担』の重さに直面しました 。『娘が大人になったとき、同じような理不尽な大変さを味わわせたくない』――その強い想いが、ハハカラの原点です」

2021年に創業した当初は、育児用品を定期的にお届けするサービスからスタートした同社ですが、ユーザーと対話を重ねる中で、片田氏は真の課題が「モノ」ではなく「夫婦間の情報格差とコミュニケーション」にあることに気づきます 。

「多くの育児アプリは子どもの成長記録が目的ですが、親が救われる仕組みにはなっていませんでした。母親だけがタスクを把握し、父親は指示を待つだけ。この構造を壊すには、家庭内の仕事を『見える化』し、夫婦が同じ情報量を持って対等に運営できる仕組みが必要だったんです」

この気づきから、家事・育児タスクを「データ」として可視化し、チームビルディングを支援する『OYA.NOTE』が誕生しました 。

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「OYA.NOTE」サービス紹介
https://hahakara.co.jp/oyanote

2. 「Webアプリ」という選択。現場のITストレスを極限まで排除する

『OYA.NOTE』は、あえてネイティブアプリではなく「Webアプリ」という形態をとっています 。ここには、産前産後の親たちが抱えるリアルな状況への深い洞察がありました。

「産前産後は、自治体のアプリやライフスタイル関連のアプリが急増し、管理しきれないほどのツールを強要されます 。スマートフォンの容量も限界ですし、操作を使い分けるのもストレスです 。だからこそ、ブラウザからアクセスでき、場所を選ばずリアルタイムにパートナーと状況を共有できる手軽さを優先しました」

また、開発面では「アジャイル」な姿勢を重視。ユーザーの声を即座に反映し、アプリよりも迅速にアップデートを行える体制を整えています 。これは、刻一刻と変化する育児現場のニーズに寄り添い続けるための、片田氏のこだわりでもあります。

3. データが証明した「心の余裕」の改善

ハハカラが関西大学(古谷嘉一郎教授)と共同で行った、宇都宮市職員向けの実証実験の結果は、目覚ましいものでした 。約1ヶ月間にわたる「見える化」の介入により、以下のような有意な変化が確認されています 。

  • 家事・育児タスク負荷の低減家事・育児分担が夫婦共同で進んだ結果、個人の負担感が減少しました 。
  • 心理的余裕の向上タスクが可視化されることで、精神的なパンク状態が緩和されました
  • パートナー満足度の改善相互の状況を冷静に捉えられるようになり、関係性が前向きに変化しました 。

「データの活用事例として面白いのが、分担比率が劇的に変わらなくても、アプリを通じて感謝のメッセージを送り合えるだけで、夫婦満足度は向上するという点です 。データによって『相手が何をどれだけやってくれているか』を正しく認識できることが、心の余裕を生むのです」

また、実証報告によれば、この取り組みは「会社が見えない家事の可視化に本気で取り組んでいる」というメッセージとして伝わり、社員の心理的安全性や復職への前向きな意欲にも繋がっています 。

4.なぜ「データの可視化」が地方を救うのか

地方企業や自治体にとって、この「家庭内データの可視化」は、単なる福利厚生を超えた「戦略的投資」となります。

宇都宮市でのプロジェクトに参加した男性職員からは「可視化によって、自分の家事への貢献を主張できるようになった」という声や、「感謝の方法を学んだ」という声が上がっています 。

「地方創生において、最大の資源は『人』です 。しかし、地方ではまだ『男性は仕事、女性は家庭』という意識が残っている地域もあり、それが優秀な人材の離職を招いています 。ハハカラのデータを活用すれば、組織は社員のリアルな実態を把握し、『この地域でも子育てしながら働き続けられる』という選択肢を提示できる。それが、地方における持続的な組織づくりへと波及していくんです」

実際に、実証実験後には「自分が置かれている状況を冷静に捉えられるようになった」との声もあり、家庭の基盤を整えることが、長期的な人的投資としての重要な初期指標となることが示されています 。

5.AI伴走と「人的資本」が開く、データ活用の新たな地平

片田氏が見据える次なるステップは、2026年4月から本格始動する「AI伴走」機能の強化です 。これまで人力で行ってきたきめ細やかなサポートをシステム化し、蓄積されたデータに基づき各家庭の状況に合わせた最適なメッセージをAIが自動生成します 。

しかし、ハハカラが大切にしているのは、効率化の先にある「温かさ」です。システムによる自動化を進めつつも、最終的な判断には必ず人の目を介在させることで、家族一人ひとりに寄り添った確かなエールを届けます 。この「半自動」の伴走こそが、親たちのモチベーションを維持し、確かな行動変容を促す鍵となります 。

そして、この挑戦は家庭という枠を越え、社会の仕組みそのものを変えようとしています。片田氏が描く未来、それは家事や育児の分担データが、企業や自治体の意思決定において「正式なデータ」として扱われる社会です 。

家事の分担状況や夫婦の満足度は、もはやプライベートな問題ではありません 。これらが可視化され、良好なスコアを示す企業こそが、真の意味で「持続可能な、良い会社」として評価される。そんな新しい価値基準の構築を目指しています 。

「これまでデータとして扱われてこなかったもの」に光を当てる 。その一歩が、企業の人的資本経営をアップデートし、ひいては地域の未来を力強く変える原動力になると信じています 。

取材協力:株式会社ハハカラ

東京都品川区を拠点に、共働き夫婦の家事・育児の見える化支援や「OYA.NOTE」の運営、夫婦協働研修を展開 。社員2名、業務委託4名体制で「夫婦協働とウェルビーイングの実現」を目指すスタートアップ企業。

企業サイトhttps://hahakara.co.jp/