「30年前の自分の学生時代と、現在の式典が何も変わっていない。ここに大きな違和感があったんです」
そう語るのは、2022年6月に創業したGo Good株式会社の代表取締役社長、谷口康忠氏です 。同社は、全国に個別指導塾を展開する上場企業の100%出資によって設立され 、教育機関や地方自治体を主な対象として、デジタルマーケティングやシステム開発の領域で先進的な支援を行っています 。
今回、オウンドメディア『Data for Japan』編集部は谷口氏へのインタビューを行い 、同社が提供する完全Webブラウザ仕様の拡張現実ソリューション「Go!Good AR」が生まれた背景や 、その裏側にある緻密なデータ活用の戦略についてじっくりとお話を伺いました 。
谷口氏はかつて、国内最大手の通信キャリア企業に新卒から22年間勤務 。その後、ヘッドハンティングをきっかけに親会社にあたる大手教育企業の常務取締役兼DX戦略本部長に就任しました 。マーケティングとシステムの両面から、わずか2年で3カ年のDXロードマップを達成するという圧倒的な成果を収めた経歴の持ち主です 。その確かなノウハウを、自社だけでなく課題を抱える多くの教育機関や社会全体へ還元するために立ち上げられたのが同社です 。

Go Good株式会社 代表取締役社長 谷口康忠氏
1.40分待ちの「立て看板」から始まった、ある気づき
現在、全国の大学や地方自治体から熱い視線を集めているサービスが、完全Webブラウザで動作する拡張現実ソリューション「Go!Good AR」です。この革新的なサービス開発のきっかけは、谷口氏自身の極めてリアルな原体験にありました。
数年前、娘の大学入学式に家族で出席した際、雨が降るなか、式典の「立て看板」の前で写真を撮影するためだけに40分以上もの長蛇の列に並ぶことを余儀なくされたのです。
「ようやく自分たちの番が来ても、後ろで大勢の人が待っているため撮り直しもできない。しかも、並んだ末に目にした看板は、白い板に墨で大学名が書かれただけの非常にシンプルなものでした。『これに40分も並んでいたのか』と。生まれた時からデジタルファーストで育ち、動画やSNSが当たり前のZ世代が主役の場であるにもかかわらず、バックオフィスや式典のあり方は昭和の時代のまま。この顧客体験(CX)の低さに大きな課題を感じ、ARの技術を使えばすべてをスマートに解決できると確信したのです」
従来のARといえば、専用のネイティブアプリをわざわざダウンロードしなければならないものが主流でした。しかし「Go!Good AR」は、ユーザーに負担をかけない「完全Webブラウザ仕様(WebAR)」を採用しています。スマートフォンでQRコードを読み込むだけで即座に体験がスタートする手軽さを実現したことで、老若男女、誰一人取り残さない公平なデジタル体験の場を作り出すことに成功しました。
(※手軽に導入できるARの詳細は、Go!Good AR サービス紹介サイト からご覧いただけます。)

2.「リアルな現場の痛み」に寄り添うソリューション
谷口氏はサービス開発するにあたり、約20の大学の総務部や式典担当者に徹底的なヒアリングを実施しました 。そこで浮き彫りになったのは、華やかなイベントの裏側にある、現場担当者たちの深刻な「痛み」と課題の数々でした 。
例えば、東京都内の有名私立大学では、公道を挟んでキャンパスが位置しているため、入学式・卒業式の立て看板の列が周辺道路にまで溢れかえり、毎年地域住民からのクレーム電話対応が課題でした。また、郊外に広大なキャンパスを持つ大学では、立て看板の行列があまりにも長すぎて、遠方から来た保護者や学生が帰りのバスを逃してしまうという事態も発生していました 。
さらに、式典がキャンパス外の外部ホールで開催されるケースでは、そもそも会場の制約から物理的な立て看板を設置することすらできず 、学生や保護者から「どこで記念撮影をすればいいのか」という不満の声が上がっていました。
「他にも印象的だったのは、病気などのやむを得ない事情で式典を欠席せざるを得なかった学生が、一週間後に家族で袴を着てキャンパスにやってくるというお話です 。大学側としては気持ちよく迎えてあげたいものの、その時にはすでに看板は撤去されていて何もない。こうした、学生に最高の思い出を作ってあげたいという総務部の方々の思いと、物理的な制約との板挟みを解決したのが、どこでも好きな場所に設置できるAR立て看板でした」
「Go!Good AR」を導入すれば、体育館やグラウンドといった学生一人ひとりの「本当の思い出の場所」にスマートフォンをかざすだけで、画面上に華やかでデザイン性の高い立て看板が出現します 。物理的な看板制作や設置コスト、当日の人員配置といった運用側の稼働を大幅に削減しながら 、待ち行列による周辺へのクレームや混雑を完全に解消することができるのです 。

3.可視化された「データ」が明かす学生の行動変容
多くの企業や自治体がARを導入する際、一時的な「お祭り騒ぎのツール」として消費されてしまうケースが少なくありません 。従来のフォトフレーム形式のARが、導入されたもののあまり利用されずに終わっていたのもそれが原因です 。しかし、谷口氏が率いるGo Good株式会社の真の強みは、ARを「顧客体験(CX)の創出」と同時に「精緻なマーケティングデータを収集・可視化するための高度なDXインフラ」として再定義した点にあります 。
「Go!Good AR」は、利用回数や利用時間などをデイリーのデータとして詳細に蓄積し、分析レポートとして顧客にフィードバックする仕組みを構築しています 。このデータ活用により、これまで感覚でしか捉えられていなかった「学生のリアルな行動」が次々と可視化されました 。
実際、この春に17の大学に導入されたAR立て看板では、なんと全学生の7割以上という極めて高い利用率が計測されました 。さらに、時間軸のデータを分析することで、画期的な発見がもたらされました 。
「卒業式のデータを分析したところ、式典が終わった日中だけでなく、夜間の24時近くになっても利用回数が伸び続けていることが分かりました 。これは、学生たちが卒業式を終えたあと、夜の打ち上げや飲み会の席にまでAR立て看板を『持ち出して』、仲間たちと何度も記念撮影をして楽しんでいるということを意味しています 。また、入学式のARでは、式典から1週間が経過しても毎日誰かがアクセスしていました 。入学後のオリエンテーションを通じて新しくできた友達同士で、キャンパス内で記念撮影をしてコミュニティを深めている 。データを可視化しなければ絶対に分からなかった、若者たちの温かい行動変容がそこに映し出されていたのです」
これまで大学の総務部や庶務課は、ルーティンワークを淡々とこなす「硬いバックオフィス」と見なされがちでした 。しかし、自分たちが仕掛けたAR施策によって学生たちがどれほど喜び、どう行動したかが明確な数値データとして証明されたことで、現場の職員たちの意識にも大きな変化が生まれています。
「『今日は何回使われましたか?』と、イベントを仕掛ける側である職員の皆さんがワクワクしながら数字を気にするようになる。データが共有されたことで、働く側のモチベーション向上や組織の活性化にも繋がっています」
4.公平なシティプロモーションとファンマーケティングの実現
「Go!Good AR」の活躍の舞台は、大学キャンパスだけに留まりません 。地方創生という文脈において、地方自治体や地域コミュニティの維持・活性化に向けた強力なツールとして活用が進んでいます 。
具体例として、埼玉県ふじみ野市では成人式(二十歳の集い)の会場にこのシステムが導入されました 。同市では、若者に対して「いかに故郷としての愛着を持ってもらうか」というファンマーケティングとシティプロモーションの課題を抱えていました 。
自治体が施策を打つ上で最も重視するのは、特定の誰かだけではなく「市民全員に公平に届けられるか」という点です。専用アプリのインストールが不要で、手持ちのスマートフォンだけで稼働するWebARは、この自治体特有の「公平性」というハードルを完璧にクリアしました 。当日は多くの新成人がAR体験を楽しみ、待ち時間の解消だけでなく、高いデザイン性によって市のイメージ向上に貢献しました 。
さらに、同市での実績をもとに、今年は埼玉県吉川市の周年記念事業におけるシティプロモーションの支援も決定 。市民一人ひとりが主役となるライフイベントや街の行事に寄り添い、単なる楽しかった思い出作りに終わらせず 、提供者側に市民の利用ログを残すことで、どのようなシチュエーションやコンテンツが最も市民の満足度を高めるのかを科学的に分析する体制を整えています。
谷口氏は、この仕組みを地方の観光振興やインバウンド対策へと横展開していく構想を持っています。
「現在、多くの観光地で『ARフォトフレーム』のような施策が行われていますが、その多くはログが取れていません。私たちは京都の大学と社会共創パートナーシップを締結し、インバウンドの外国人観光客に向けた取り組みの検討を始めています。外国人の方が言葉の壁を感じる観光名所や伝統産業の現場において、スマートフォンをかざすだけで、テキストだけでは通じない情報を動画で見せたり、拡張現実として体験を深めてもらったりする。視覚的な体験を通じて地域の奥深い文化への理解を深めてもらいつつ、観光客がどこで、何を求めて動いたのかという『体験ログ』を地域側へ還元する。これが、エンタメをデータの力で社会インフラへと昇華させる地方創生の未来像です」
5.「体験型マーケティング」を支えるユニークな価格戦略とBtoB展開
優れた技術やデータ活用の仕組みであっても、導入のハードルが高ければ地方の企業や学校、自治体には普及しません 。谷口氏が仕掛けたもう一つの画期的なイノベーションが、その「ビジネスモデルと価格設計」にあります。
市場にある多くのAR開発ベンダーは、システム構築や初期費用として高額な請求をしてくることが少なくありません。しかし、「Go!Good AR」の式典向けプランは、1イベント利用で3万円/月のみという非常に手頃な価格で提供されています。
「なぜ3万円なのか。これは、大学や自治体という組織において、稟議や決裁のプロセスを最もスピーディーに通過し、新規の『取引口座を開設』できる絶妙な金額設定だからです。金額が高額になると一気に決済のハードルが上がります。まずは3万円のAR立て看板で総務部との信頼関係を築き、口座を開く。そうすると、その実績が今度は『入試広報部』や『キャリアセンター』へと学内で繋がり、大きなマーケティング案件へと発展していくのです」
同社は、18歳未満の中高生に対して主要な広告媒体が未成年保護の観点からターゲティング広告を制限しているという、中高生向けアプローチの課題に着目。中高生しか使わない学習アプリに独自の広告配信SDKを埋め込む手法や、オープンキャンパスで配布する「大学オリジナルノート」にARを仕込み、そこから入試サイトへのWeb誘導をすべてトラッキングする施策などを展開しています。
入り口は手頃な「3万円のAR体験」でありながら、その裏側では顧客獲得のファネル全体をデータで最適化する、極めて緻密なBtoBマーケティング戦略が機能しているのです。
おわりに:データ活用に悩む自治体や企業の担当者へ
インタビューの最後に、谷口氏はこれからデータ活用やDXに取り組もうとしながらも、なかなか一歩を踏み出せずにいる全国の自治体や企業の担当者に向けて、熱いメッセージを届けてくれました 。
「これからの時代、自治体、企業、学校を問わず、すべてのコミュニケーションメッセージは『体験型』にシフトしていきます 。なぜなら、単なる告知広告やPRだけでは人々の印象が弱く 、激しい情報社会のなかで一瞬で埋もれてしまうからです。いかにして自らのスマートフォンを使って『体験』してもらい 、ワクワクのなかで理解を深め、記憶に焼き付けてもらうか 。カスタマーエクスペリエンス(CX)の向上がすべてを決めます」
さらに、同社が描く直近の未来像として、「QRコードを読み込む」というわずかなワンアクションすら無くしていく構想を進めています 。
「スマートフォンをかざす、あるいはNFCタグ(近距離無線通信)に『タッチするだけ』で即座にAR空間へ繋がる仕組みの構築を進めています。これにより、ユーザーの利便性が向上するだけでなく、企業側には『タッチログ ✕ AR体験ログ』という、さらにリッチで網羅的なデータが蓄積されるようになります 。バックオフィスのアナログな業務を、顧客をワクワクさせる体験へと変え 、そこから得られたデータで経営や地域社会の意思決定を支援していく。ARは単なるエンターテインメントではありません 。人々の心を動かし、その軌跡を未来の街づくりやビジネスの成長へと繋ぐ、最も人間味のあるデータ活用の手法なのです」
データ活用という言葉を聞くと、どうしても「難解な数式」や「冷たいシステムの導入」を思い浮かべてしまいがちです。しかし、Go Good株式会社が証明しているのは、「誰かを喜ばせたい、混雑のイライラを解消してあげたい」という人間の温かい想い(CX)を出発点にすることこそが、DXを成功に導く最大の鍵であるという事実です 。
あなたの目の前にあるアナログで変わらない景色も、データの光を当てることで、市民や顧客をワクワクさせる新しい感動の舞台へと生まれ変わるかもしれません 。
【取材協力】Go Good株式会社
全国に個別指導塾を展開する上場企業の100%出資子会社として2022年6月に設立。「ワクワクするデジタルコミュニケーションの創造」を掲げ、教育機関や地方自治体向けにシステム開発やデジタルマーケティング、AR(拡張現実)ソリューションの提供を行う。アプリ不要で手軽に体験できる「Go!Good AR」を通じて、リアルなイベントとデジタルマーケティングデータを融合させた、新しい切り口でのDXおよび地方創生を推進している。
企業サイト:https://go-good.com/













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