チームの「やり取り」をデータ化し、地方企業の生産性を劇的に変える。Oneboxが描くAI時代の働き方

Onebox様インタビュー24

日本の地方創生において、切実な課題となっているのが労働力不足と、それに伴う生産性の向上です。多くの企業がDXの必要性を感じながらも、「何から手をつければいいのか」「自分たちの業務はアナログだから無理だ」と諦めてしまうケースが少なくありません。

しかし、2020年に創業したスタートアップ、Onebox株式会社が提供するメール共有・問い合わせ管理システム「yaritori(ヤリトリ)」は、そんな地方の現場にこそ変革をもたらしています 。特別なデータエンジニアを雇うことなく、日々の「メール」というやり取りをデータ化し、AIと共に活用することで、いかにして創造的な時間を取り戻せるのか。同社の樋浦耕治氏へのインタビューから、その具体的な道筋を探ります。

Onebox株式会社 樋浦 耕治氏

創業の原点:なぜ「メール」が業務効率化の鍵なのか

Oneboxは2020年、「ビジネスの非効率の根底にあるものを解消したい」という問いから、長年大きな進化がなく止まっていた「メール」という領域に着目して生まれたスタートアップです。

どんなにチャットツールが普及しても、顧客や外部の取引先との公式なやり取りの起点は依然としてメールです。しかし、そのデータは個人の受信トレイという「箱」の中に閉じ込められ、組織としての資産になっていないという大きな矛盾がありました。この「非創造的な情報の分断」を解消し、あらゆる業務のやり取りを一つの箱(Onebox)に集約することで、次の一手が見えてくるというビジョンが、現在のサービスへと繋がっています。

サービス紹介https://yaritori.jp/

地方の現場が抱える「属人化」という深い悩み

地方企業からOneboxへ寄せられる相談の多くは、広告による営業ではなく、現場の切実な課題を抱えた経営者からのインバウンドによるものです。その共通項は「属人化」というキーワードに集約されます。

事例①:社長自らが深夜まで対応していたEC事業者

ある地方の家具販売を手掛けるEC事業者では、長年、社長一人がすべてのお客さま対応を担っていました。顧客との信頼関係が重要な商売である一方、事業が拡大するにつれて、深夜までメール返信に追われる日々が常態化していました。社長にしかわからない情報、社長にしか書けない返信。これらがボトルネックとなり、対応漏れやスピードの低下を招いていたのです。

この企業ではyaritoriを導入し、5〜6人のチームで一つのアドレスを共有する体制に移行しました。誰がどのメールに対応しているかが可視化されることで、社長一人の負担が劇的に軽減されました。さらに、蓄積されたやり取りをベースにテンプレート機能を活用することで、誰が対応しても社長と同等の「品質」を保てるようになり、結果として対応スピードと顧客満足度の向上を同時に実現したのです。

事例②:専門性の高い製造業における「情報のバトン」

また、専門的な規格や複雑な見積もりが必要な製造業の現場でも、大きな変化が起きています。 例えば、特定の部品を加工するメーカーでは、営業担当者がそれぞれ個人のアドレスでお客さまとやり取りをしていました。しかし、納期や一般的な受発注に関する問い合わせまで営業個人に集中してしまうため、本来のコア業務である商談に集中できないという課題がありました。

そこで同社は、定型的な問い合わせは事務スタッフのチームで共有するアドレスに集約し、営業担当者にしか判断できない高度な内容だけをトスアップする体制を整えました。yaritoriのチャット機能を使い、メールの裏側で「この納期で大丈夫ですか?」と相談することで、電話や席を立つ手間を省き、シームレスな情報の受け渡しが可能になりました。

データエンジニアリングとしてのAI活用

Oneboxが提供しているのは、単なる共有管理ツールではありません。樋浦氏は、 yaritoriを「AIエージェント」へと進化させることに注力しています。

過去の文脈を読み解く「賢いAI」

現在、多くのメーラーがAI文章生成機能を搭載し始めていますが、OneboxのAIは一線を画します。最大の特徴は、過去の膨大なやり取りデータや、社内の最新マニュアルをAIが自ら学習(参照)した上で文章を作成する点です。

一般的なAIでは、直前の一通のメールだけを見て返信案を作りますが、yaritoriのAIは「一週間前のあの相談」や「昨年同様のケースでどう対応したか」という文脈をメモリーとして保持し、ローリングして最適な答えを探し出します。これにより、専門用語が飛び交う地方の製造現場や、特有の商習慣がある業界でも、違和感のない、精度の高い文章を生成できるのです。

精神的負担をデータで解決する

また、現場での意外な活用方法として「クレーム対応のAI化」があります。 対人コミュニケーションは、たとえメールであっても精神的なエネルギーを消費します。特にクレーム対応は、担当者が「心を無にして」返信しようとしても、どうしてもストレスがかかってしまいます。

あるユーザー企業では、クレーム対応の一次案をあえてAIに作らせることで、スタッフの心理的なハードルを下げています。AIが冷静に事実に基づいた草案を作ることで、担当者はその内容を確認・微調整するだけで済み、精神的な疲れを最小限に抑えながら、誠実な対応を維持することが可能になりました。これは、人の心理的なリソースを「データとAI」によって保護する、新しい形の働き方と言えるでしょう。

地方自治体DXの可能性と「クラウドの壁」

このデータ活用の波を、行政や自治体の現場にも広げたいと樋浦氏は語ります。自治体の窓口には、日々膨大な市民の声(メール)が届いていますが、依然として電話対応が主流であり、情報の蓄積や利活用が十分に進んでいない現状があります。

樋浦氏は、電話で行われているやり取りを、まずは「テキスト(メール)」というデータに移行することの重要性を説いています。テキスト化されればAIが学習でき、過去の似たような事例を瞬時に引き出したり、定型的な質問に自動で回答したりすることが可能になるからです。

一方で、自治体特有の「セキュリティの壁」も存在します。どんなに高いセキュリティを誇っていても、「クラウドサービスである」という理由だけで導入が難航するケースも少なくありません。しかし、かつてオンプレミスが主流だった時代からAWSなどのクラウド利用が当たり前になったように、より安価で高度な機能を利用できるクラウドへの移行は、リソースの限られた地方自治体にとって必然の流れになるはずだと同社は見据えています。

AIが自律的に動く未来へ、完全遂行への挑戦

Oneboxが目指すのは、AIが文章を作るだけでなく、自ら業務を完結させる「完全遂行」の世界です。

半年以内には、特定のカテゴリーにおいてAIが送信までを担う機能を実装予定です。AIがメールの内容を判断し、正答率が極めて高いもの(例えば配送日の変更や、よくある質問への回答など)は、人間が介入することなく即座に返信を完了させます。

さらに、AIが判断に迷うような難しい問い合わせに対しては、AI自らが担当者に「ここがわからないので教えてください」とメンションを送る。これは、AIを単なるツールとして使うのではなく、24時間365日働く「優秀な新人スタッフ」としてチームに迎え入れるような体験です。

おわりに:地方企業こそ「データの力」を信じてほしい

データエンジニアリングやAI活用は、決して大企業だけのものではありません。むしろ、人手不足が深刻な地方企業こそ、テクノロジーの恩恵を最も受けるべき存在です。

日々の何気ないメールのやり取りをデータとして可視化し、AIに任せられる部分は徹底的に任せる。それによって生まれた「余白」の時間で、人間はよりクリエイティブな仕事、地域を盛り上げるための新しい挑戦に向き合うことができるようになります。

「非創造的な業務をなくす」というOneboxのミッションは、地方の現場で働くすべての人々が、よりワクワクした働き方を手に入れるための招待状でもあります。まずは目の前のメールを一歩、データに変えることから、地方創生の新しい物語を始めてみませんか。

【取材協力】OneBox株式会社

2020年に創業したスタートアップ企業。メール対応の効率化を起点に、生成AI技術を活用した業務自動化・DXソリューション「yaritori(ヤリトリ)」の開発・提供を通じ、企業の「非創造的な業務」を排除し、生産性向上を支援。
企業サイト:https://onebox.tokyo/