地方創生という言葉が叫ばれて久しい昨今、その鍵を握るのは「データ」であると言われています。しかし、現場で戦う地方の食品メーカーや小売業のバイヤーにとって、データ活用はどこか遠く、冷たい響きに聞こえることも少なくありません。
そんな中、「データ活用とは、もっとシンプルに『人の思いを繋ぐ』ことである」と断言し、ITの力で食の流通に革命を起こそうとしている企業があります。株式会社サンレックスが展開する、食のビジネスマッチングプラットフォーム『TRY+(トライプラス)』です。
今回お話を伺ったのは、同社の事業マネージャーであり、プロジェクトリーダーとして開発の指揮を執った髙木翔太氏。創業43期目を迎え、長年食品業界の受発注を支えてきた老舗IT企業が、なぜ今、生成AIを駆使した新規事業に乗り出したのか。髙木氏がサービスに込めた情熱と、データが拓く地方創生の未来について詳しく伺いました。

株式会社サンレックス 准執行役員 顧客システム開発部 部長 髙木翔太氏
1.創業43年目の老舗が挑む「第二の創業期」
株式会社サンレックスは、もともと富士通のディーラーとしてハードウェア販売からスタートした企業です。創業から20年が経過した頃、現在のメイン事業である食品小売業向けの受発注システム(EDI事業)を立ち上げました。以来20年にわたり、業界のインフラとして多くの取引を支えてきましたが、市場の成熟や時代の変化に伴い、大きな転換点を迎えていました。
「EDI事業は非常に安定したビジネスではありますが、裏を返せば流動性が低く、市場はすでに飽和状態にありました 。現状の安定に甘んじていては、刻々と変化する時代の潮流に取り残され、衰退を待つだけになってしまう。 そんな強い危機感から、社内ではエネルギーに満ちた新規事業プロジェクトが始動しました。」と髙木氏は振り返ります。
約2年の準備期間を経て、2026年1月に正式ローンチされたのが、食のワクワクを届けるプラットフォーム『TRY+(トライプラス)』です。
サービスサイト:https://lp.tryplus.net/
2.「良いもの」と「販路」を繋ぎ、地方のミスマッチを解消する
『TRY+』誕生のきっかけは、サンレックスが長年培ってきた約3,000社に及ぶ取引先への徹底的なヒアリングでした。現場を歩き、声を拾い集める中で、食品業界が抱える根深い「情報のミスマッチ」が浮き彫りになったのです。
食品小売業のバイヤーは、常に「競合店と差別化できる、キラリと光る商品」を探しています。しかし、日々の膨大な業務に忙殺され、全国を飛び回って開拓する時間は限られています。また、卸売業からの提案も画一的になりがちで、なかなか目新しい商品に出会えないという課題がありました。
一方で、地方の食品メーカー(製造業)は、地元で愛される素晴らしい商品を持っていても、それを全国に広める術を知りません。資金も限られ、大都市圏のバイヤーに営業に行くための交通費や宿泊費さえ大きな壁となります。
「この買い手と売り手、双方の課題を解決し、三方良しの世界を作りたい。それが『TRY+』の原点です」と髙木氏は語ります。
サービス名の『TRY+』には、「キラリと光る逸品に出会えて、商品を“試せる(TRY)”」という意味が込められています。ロゴの「+」のデザインには「キラリと光る」というニュアンスを込め、一般消費者には買い物のワクワクを、バイヤーには仕入れのワクワクを、そしてメーカーには地元を盛り上げる誇りを提供することを目指しています。
また、単なる効率化だけでなく、UI(ユーザーインターフェース)にも徹底的にこだわっています。目指したのは、店舗に行くだけで楽しくなる「カルディ」や「ドン・キホーテ」のような世界観です。画面上には店長のおすすめコメントを模した「ポップ」を表示させるなど、バイヤーがワクワクしながら商品を探せる工夫が施されています。

3.生成AIが「商品の隠れた魅力」を引き出す
『TRY+』の最大の特徴の一つは、データ活用の基盤に「生成AI」を積極的に取り入れている点です。
通常、プラットフォームへの商品登録はメーカーにとって大きな負担となります。特にITに馴染みの薄い地方の中小零細企業にとって、魅力的な紹介文を書いたり、詳細なスペックを入力したりする作業はハードルが高いものです。
そこでサンレックスでは、メーカーから提供された商品のパンフレット(PDF)や画像をアップロードするだけで、AIが商品情報を自動で抜き出し、魅力的な紹介文を作成する機能を実装しました。 「原材料やアレルギー情報、カロリーなどの正確なデータはもちろん、売り手自身も気づいていないような商品の魅力を生成AIで引き出す。これにより、買い手は魅力溢れる売り場を疑似体験しながら商品選定ができるようになります」と髙木氏はその利点を強調します。

4.「あえてデータを絞る」という逆転の発想
驚くべきことに、『TRY+』には「1企業につき登録できる商品は最大3品まで」という独自のルールが存在します。多くのプラットフォームがデータ量を競う中、あえて制限を設けているのです。
このルールには、地方の中小メーカーを支援したいというサンレックスの強い決意が込められています。 「もし制限がなければ、膨大な商品数を持つ大手企業がプラットフォームを占領し、どれだけスクロールしても大手の商品しか出てこないという状況になりかねません。それでは『販路を拡大したい』という地方メーカーの声に応えられないのです」。
商品数を3品に絞ることで、企業規模に関わらず、純粋な「商品力」だけで勝負できる公平な場が生まれます。バイヤーにとっても、厳選された「自信の3品」のみが並ぶことで、埋もれていたニーズを掘り起こしやすくなるというメリットがあります。
また、掲載料を無料に設定している点も特徴的です。これはサービス単体での利益追求よりも、まずは地方メーカーに出店してもらい、サンレックスという企業のファンになってもらう「ドアノックツール」としての役割を重視しているためです。老舗企業としての余裕と、それ以上に「地方を救いたい」という高い志が感じられる戦略です。
5.沖縄の飲食店と和歌山のメーカーを繋いだ「デジタル営業部隊」
サービス開始から間もないながら、すでにプラットフォーム上では未来に繋がるドラマが生まれています。その一つが、沖縄の飲食店と和歌山の調味料メーカーの出会いです。
その沖縄の飲食店では、店頭の自販機でサラダや料理を販売しており、自社製品だけでなく「全国の面白い商品も並べて、お客様をワクワクさせたい」という想いを持っていました。そこで『TRY+』を通じて和歌山の調味料メーカーとマッチング。プラットフォームをきっかけに、実際に具体的な商談へと発展し、商品のサンプル提供や提案を行う機会が創出されました。 和歌山の人気商品が海を越えて沖縄のバイヤーの元に届き、検討されるという体験そのものが、メーカー側の地元の誇りや手応えにも繋がっています。
「これまでアナログな展示会や、コストのかかる電話営業でしか得られなかった『遠方のバイヤーからの関心』が、デジタルな挙動やサンプル依頼の契機として可視化されます。これは24時間365日稼働するデジタル営業部隊を持っているのと同じです」と髙木氏は胸を張ります。
6.物流の壁を越え、「食のワクワク」を全国へ
サンレックスが見据える未来は、マッチングの先にある「物流」の解決です。
「買い手と売り手が繋がっても、物流コストの問題で商品が送れない、あるいは送っても利益が残らないというケースが多々あります。特に地方メーカーの利益率を圧迫するこの課題は、業界全体の大きな障壁です」。
地元スーパーが地元卸と密なネットワークを持っているという事例が多くあり、それによって流通経路・サプライチェーンが成り立っていると言うこともできます。実はどこにでも商品を届けられる仕組みは既に存在しているのです。これらを繋ぐことで、全国への配送網が作られると考えています。
将来的には、買い手・売り手・物流会社の3社を繋ぐマッチングまでを視野に入れています。長年のEDI事業で培った物流会社とのネットワークを活かし、効率的な配送網までを提案できるようになれば、本当の意味で「キラリと光る商品が日本全国に流通する未来」が実現します。
「情報格差をなくし、良い物を作っている人や企業が正当に評価される。画面越しに生産者の熱い思いやこだわりが伝わり、バイヤーが『この人から買いたい』と思える。そんな熱い思いを繋ぐことこそが、次世代のデータ活用の姿だと思っています」。
おわりに:データ活用を「冷たいもの」にしないでほしい
最後に、データ活用に踏み出せないビジネスパーソンや自治体担当者へ、髙木氏は熱いメッセージを送ってくれました。
「パソコンが苦手、ITはよくわからないという方はまだまだ多いです。でも、小難しい話は我々IT企業に任せてください。皆様はただ、商品に対する『熱い思い』を語っていただければいい。我々はその思いをデータという形に変えて、全国へ届けるお手伝いをします」。
『TRY+』が目指すのは、単に売り手が自分たちの自慢の商品を提供するだけの場所ではありません。その商品が全国に流通していくプロセスを通じて、売り手側の地元民が「自分たちの地域にはこんなに素晴らしいものがあるんだ」と地元のことを誇りに思い、そこから新たな食の関心を広げていくきっかけを提供することを心から目指しています。
データはあくまで手段であり、その先にあるのはどこまでも熱い、人と人の想いの繋がりです。 サンレックスの『TRY+』は、データの冷たさを情熱で溶かし、日本の食文化と地域コミュニティを再燃させようとしています。地方創生という大きな目標に向かって、まずは「食のワクワク」から一歩を始めてみてはいかがでしょうか。
【取材協力】 株式会社サンレックス
1983年創業。食品小売業向け受発注システム(EDI)の提供を中心に、ITの力で食品業界のDXを推進。2026年より食のビジネスマッチングプラットフォーム『TRY+(トライプラス)』を本格展開。
企業サイト:https://www.sunrex.co.jp/














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