愛知県名古屋市に本社を置く株式会社フリースタイル。SES、ゲーム開発、システム開発と多角的に事業を展開する同社が、今、障がい福祉業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)に新たな風を吹き込んでいます。
2027年4月に大幅アップデートを予定している障がい福祉事業所向けクラウド型業務支援システム『福祉リンク』。このサービスがどのように生まれ、地域の福祉現場をどう変えようとしているのか。開発の背景にある同社の「人を育てる」という一貫した哲学と、データ活用がもたらす未来について、同社の斉藤憲吾氏と川崎氏にお話を伺いました。

株式会社フリースタイル システム開発事業部 斉藤憲吾氏
1. 現場の悲鳴から生まれた「伴走型」のシステム開発
株式会社フリースタイルは、2006年に愛知県名古屋市で創業し、現在は名古屋、大阪、東京の3拠点でITソリューション事業やゲーム開発、システム開発などを展開する多角的なIT企業です。同社が今回、福祉という全く異なる領域に足を踏み入れたのは、単なる事業拡大のためではありませんでした。
今回注目する『福祉リンク』誕生のきっかけは、同社と共同開発パートナーである就労支援事業所が「デジタル化によって解消できる課題はないか」と模索する中で、身近な福祉現場が抱える深刻な課題に着目したことにありました。
障がい者福祉サービスは公費を財源とする制度に基づいて運営されているため、日々のサービス提供実績を細かく記録し、自治体へ正確に請求することが厳格に求められます。現場では、利用日ごとの勤怠管理から、個別支援計画の作成・見直し、日々の支援記録、加算要件に関するエビデンス管理、そして毎月の国保連請求データの作成といった膨大な事務作業が発生しています。これらの業務において、一つでも記載漏れや入力ミスがあれば報酬が減額されたり返戻(差し戻し)になったりするため、確認作業は職員にとって精神的にも大きな負担となっていました。
斉藤氏は、当時の状況をこう振り返ります。 「障がい福祉の現場では、記録の不備が直接経営に影響するため、非常に神経を遣う作業が続いていました。しかも、算定要件は頻繁に細かく変更されます。それに対応するだけで精一杯という状況が全国の事業所で起きていたのです」
さらに、障がい者就労支援事業所には「運営の仕方が事業所ごとに大きく異なる」という特徴があります。既存のパッケージシステムを導入しても現場の細かな運用に合わず、結局はエクセルや紙資料で補完しているという実態が、ヒアリングを通じて浮き彫りになりました。そこでフリースタイル社は、「現場の運用に寄り添う」ことを最優先に掲げ、経営者や管理者、担当者それぞれの目的が叶うシステムを目指して当システムの開発を開始したのです。
2. 「事務作業を80%削減」データ活用が生む圧倒的な効率化
『福祉リンク』は、単なる記録ツールではなく、福祉現場のあらゆるデータを一元管理し、活用できるプラットフォームです。具体的には、氏名や受給者証情報、アセスメント情報などの「利用者基本情報」、日々の勤怠や作業内容を記す「支援記録」、目標設定や進捗を管理する「個別支援計画とモニタリング」、そして「請求関連データ」や「加算管理データ」を一つのシステム上で扱います。
サービスサイト(https://fukushi-link.com/)でも紹介されている通り、このシステムがもたらす導入効果は驚異的です。
特に大きな成果を上げているのが、国保連(国民健康保険団体連合会)への請求業務の自動化です。従来、紙の記録から行政のシステムへ手入力していた作業は、事業所によっては丸1日を要することもありました。 しかし、『福祉リンク』を導入した事業所では、「事務作業を80%削減」することに成功しています。具体的には、「1日かかっていた月締めの請求業務が、わずか15分で完了した」という事例も出ています。
斉藤氏は、この数字の意味を強調します。 「これまでは二人体制で丸1日かかっていた作業が、一人で、しかも短時間で行えるようになりました。これは単なる時間の削減ではなく、現場の職員が抱えていた『ミスが許されない』という心理的プレッシャーからの解放を意味しています」
データのデジタル化は、物理的な制約も取り払いました。これまでは記録を確認するために事務所へ戻り、大量のファイルから紙を探す必要がありましたが、Webシステムである『福祉リンク』なら、タブレット一つで現場から必要な情報にアクセスでき、職員間での情報共有もリアルタイムで行えます。

▶障がい福祉事業所向けクラウド型業務支援システム『福祉リンク』
3. 「ヤンキーや引きこもり」から始まった、フリースタイルの教育哲学
フリースタイル社が福祉DXに注力する背景には、同社の創業時から続く「人を育てる」という強い信念があります。川崎氏は、同社の成り立ちについて次のように明かしてくれました。
「IT業界は深刻な人手不足と言われていますが、一方で、生まれ持った環境や学習機会に恵まれず、スキルがないために良い仕事に就けない方々が社会にはたくさんいます。弊社代表の青野は、この二つの矛盾を解決したいと考えました」
創業当時、代表は夜の繁華街などで出会った「ヤンキーや引きこもり」と呼ばれる若者たちに直接声をかけ、彼らを雇い、ITスキルを教育することから始めました。彼らが手に職をつけ、成長した先に「やりたいこと」として挙がったのがゲーム開発であり、現在の多角的な事業展開に繋がっています。
この「スキルを身につけ、活躍できる場を作る」というスキームを、障がいを持つ方々にも応用できないかと考えたのが、2017年から始まった長野県安曇野市の施設との連携でした。 特筆すべきは、『福祉リンク』自体が、事業所の利用者である障がいのある方々とともに形にしてきたプロジェクトであるという点です。企画・開発・検証のプロセスに利用者自身が参画し、実務の中でITスキルを磨くという取り組みが行われました。
「自分たちが使うシステムを自分たちで良くしていく」という経験は、利用者にとって大きな自信に繋がります。単に効率的なシステムを提供して終わりではなく、開発プロセスそのものが支援対象者の自立を促す「教育の場」となっている。これこそがフリースタイル社の独自性です。
4.地方創生への貢献と、AI活用で見据える未来
フリースタイル社は「地方創生」を重要な経営課題として位置づけています。地方において、福祉事業所は地域の雇用を支える大切な存在ですが、小規模な事業所ほど事務負担や請求ミスが経営を圧迫しやすいという課題があります。
「『福祉リンク』の導入によって加算の取りこぼしを防ぎ、事務作業を効率化することで、職員が利用者への支援に専念できる環境を作りたいと考えています。支援の質が向上すれば、結果として障がいのある方の就労機会拡大に繋がり、地域経済の活性化にも貢献できるはずです」と斉藤氏は展望を語ります。
さらに、今後の展開として同社はさらなるデータ活用とAI技術の導入を見据えています。現在、福祉現場では職員の「経験」や「勘」に頼っている部分が少なくありません。しかし、蓄積されたアセスメント情報や日々の記録をAIが分析することで、より客観的な個別支援計画の作成補助が可能になります。また、現在の運用状況から「さらに適切な報酬(加算)が受けられる」といった経営上のアドバイスをシステムが自動で行う機能の検討も進めています。
属人的な運営から脱却し、データに基づいた「持続可能で再現性のある福祉経営」を実現する。それが、フリースタイル社が描く福祉業界全体のDXを通じた未来像です。
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5.DXに悩む福祉現場の担当者へ
インタビューの最後、斉藤氏はDX導入に悩む自治体や事業所の担当者へ向けて、力強いメッセージを送ってくれました。
「福祉の現場で本来やりたいことは、利用者様をしっかりと支援して、社会への自立や就労へ繋げることのはずです。しかし現実は、複雑な事務作業に追われて満足な支援ができていないというジレンマがあります。『福祉リンク』は、単なる効率化ツールではありません。事務作業をシステムに任せることで生まれた時間を、利用者様一人ひとりと向き合う『心』の時間に充ててほしいのです」
自社の利益だけでなく、業界全体、そして支援対象者である「人」の自立を真剣に考えるフリースタイル社の姿勢は、データの力で社会を良くするという「地方創生DX」の、一つの理想的な形を示していると言えるでしょう。
【取材企業】 株式会社フリースタイル
2006年創業。「いつからでもコンティニュー」を経営理念に掲げ、愛知県名古屋市を拠点にITソリューション(SES)、ゲーム開発、システム開発を展開。独自の教育カリキュラムにより未経験からプロのエンジニアを育成する仕組みに強みを持ち、その知見を活かした障がい福祉DX「福祉リンク」の開発・提供を通じて社会課題解決に取り組んでいる。 本社:愛知県名古屋市中区錦1丁目5番13号 オリックス名古屋錦ビル9階
企業サイト:https://freestyles.jp/













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