健康データで地域を動かし、膨大な医療費抑制を実現する。「健康と経済が循環する」持続可能な地方創生の形。

べスプラ様インタビュー19

超高齢化社会の到来により、日本の多くの自治体がいま、かつてない岐路に立たされています。「膨れ上がる社会保障給付費(医療費・介護費)」と「衰退する地域経済」。この、一見すると相反する二つの巨大な課題を、デジタルとデータの力で同時に解決しようと挑んでいるのが、株式会社ベスプラです

同社が展開する「脳にいいアプリ×健康ポイントサービス」は、単なる歩数計や脳トレアプリの枠を大きく超えています。住民の行動変容を科学的に促し、地域の店舗や企業を巻き込んだ「持続可能な循環型モデル」として、現在、全国30以上の自治体で社会実装が進んでいます。

今回は、代表取締役の遠山 陽介氏に、サービス開発の根底にある切実な想いから、データが解き明かす「健康と経済」の新しい関係性、そして地方創生が目指すべき未来像について、じっくりとお話を伺いました。

株式会社べスプラ 代表取締役社長 遠山陽介氏

1.家族の経験から始まった「誰もが健やかに暮らせる社会」への執念

株式会社ベスプラがヘルスケアサービスに注力する原点は、代表の遠山氏が経験した「家族の認知症」にあります 。家族として直面した辛さから、「同じような境遇の人を増やしたくない」という強い想いが創業のきっかけとなりました 。

起業前、遠山氏はシステムエンジニアとして特定健診や保健指導のデータ分析に携わっていました 。そこでデータの可能性と「継続」の難しさを目の当たりにし、ITで医療を支える役割の大きさを確信したといいます 。

サービス開発において同社が一貫してこだわってきたのは、科学的根拠(エビデンス)です 。当初はシンプルな脳トレからスタートしましたが、研究を深める中でスウェーデンの「フィンガー研究」に着目しました 。これは、食事、運動、認知トレーニング、血管リスク管理を組み合わせた「複合的な介入」が認知機能の低下を抑制することを証明した研究です 。

「単一の行動ではなく、歩行、食事、脳トレ、そして社会参加。これらを日常の中で、誰でも楽しみながら続けられる形に落とし込むこと」 。この思想こそが、現在のサービスの背骨となっています 。

2.「やりっぱなし」を脱却し、EBPMを加速させる

現在、多くの自治体が健康増進施策に取り組んでいますが、共通の悩みは「効果が見えにくい」こと、そして「健康無関心層に届かない」ことです。

「従来の健康教室などは、参加した瞬間の満足度は高いものの、その後に参加者がどう変わったか、医療費がどう抑制されたかという追跡が困難でした。つまり『やりっぱなし』の状態になりがちだったのです」と遠山氏は指摘します。

ベスプラの「脳にいいアプリ」は、このブラックボックス化していた「住民の日常」を可視化します。

  • 歩行データ: 歩数だけでなく、フレイル(加齢による心身の衰え)との相関が極めて高い「歩行速度」を計測。
  • 食事データ: 摂取した品目数から、栄養バランスの偏りを把握。
  • 脳トレ・バイタル: 日々の認知機能のトレーニング状況と血圧・体重の推移。
  • 社会参加: 自治体イベントやボランティアへの参加ログ。

これらの多面的なデータを経年的に蓄積・分析することで、自治体は「いつ、誰に、どのような介入をすべきか」をデータに基づいて判断できるようになります(EBPM)。例えば、ある地区の平均歩行速度が低下傾向にあることが分かれば、そこを重点的にウォーキングイベントの会場にする、といったピンポイントの施策が可能になるのです。

さらに、このシステムは「健康無関心層」へのリーチにも成功しています。データを追うと、サービス開始当初は意識の高い層が中心ですが、年数を経るごとに、元々歩数が少なかった層の参加が増えているという興味深い傾向が見えてきました。「ポイントがもらえる」「地域で使える」というインセンティブが、これまで健康に無関心だった人々を動かす強力な呼び水となっているのです。

▶「脳にいいアプリ」サービス紹介

https://www.braincure.jp

3.数値が証明するインパクト:15億円を超える医療費抑制効果

データの力は、自治体の財政面でも驚くべき成果を叩き出しています。

代表的な事例が、東京都八王子市で展開されている「てくポ」です。約1.3万人の市民が参加するこのプロジェクトでは、利用者の健康状態の改善をシミュレーションした結果、これまでに推定で約15.94億円もの医療費抑制効果が算出されています。 また、埼玉県越谷市や愛媛県松山市においても、数億円規模の抑制効果が試算されており、健康づくりが単なる「福祉」ではなく「投資」であることを証明し続けています。

しかし、遠山氏が最も大切にしているのは、数値の裏側にある「一人ひとりの人生の変化」です。 八王子市に住む78歳の男性のエピソードは、その象徴と言えるでしょう。

「その方は膝の痛みから歩くことが困難になり、医師からは車椅子生活を覚悟するように告げられていました。しかし、アプリを使い始め、AIが提案する『あなたに合った目標』をコツコツとクリアし、ポイントを貯める楽しみを見つけたことで、生活が一変しました。気づけば痛みも和らぎ、今では毎日5,000歩以上を元気に歩かれています」

データが示す改善の予兆をAIがキャッチし、適切な励ましを送る。このテクノロジーによる「伴走」が、一人の人間の未来を変え、それが積み重なることで地域全体の活気へと繋がっていくのです。

4.地域経済とリンクする「持続可能なエコシステム」の構築

自治体にとっての大きな障壁は、施策を継続するための「原資」の確保です。公費によるポイント付与は、予算が尽きれば終わってしまいます。そこでベスプラが提唱しているのが、「官民連携による自立型モデル」です。

「ポイントの原資を自治体の予算だけに頼るのではなく、地域の民間企業や店舗が参加する仕組みを構築しています」と遠山氏は解説します。

例えば、アプリ内のマップには地域の協力店舗が表示されます。住民がその店を訪れると、アプリ内のキャラクターと「脳トレ対戦」ができるといったゲーム要素が盛り込まれています。勝てばポイントが付与され、そのポイントはまさにその店での買い物に利用できる。店舗側は「集客」と「地域貢献」の対価として一定の月額費用を支払い、それがポイントの原資やシステムの運営費に充てられるという仕組みです。

このモデルをさらに進化させたのが、沖縄県などで進められているプロジェクトです。 「今後は、健康食品メーカーや製薬会社などの民間企業とも、より深く連携していきます。例えば、データから『タンパク質が不足している』と判断されたユーザーに対し、パートナー企業の栄養補助食品を提案する。ユーザーは健康になり、企業は適切なターゲットにアプローチでき、自治体は健康寿命が伸びる。この『三方よし』のプラットフォームこそが、私たちが目指す未来です」

5.デジタルデバイドを突破する「キラーコンテンツ」としての役割

「高齢者にスマートフォンやアプリは難しいのではないか」。そんな懸念を払拭したのが、東京都渋谷区での事例です。

渋谷区では、デジタルデバイド(格安スマホ普及・利用格差)解消を目的に高齢者へスマートフォンを貸与しました。その際、「何に使えばいいかわからない」という声に応えるため、ベスプラの「脳にいいアプリ」をプリインストールしたところ、利用率と継続率が劇的に向上したのです。

「健康になりたい、ポイントが欲しい、地域と繋がりたい。こうした根源的な欲求に応えるサービスは、デジタルに不慣れな高齢者にとっても、スマートフォンを使い続ける強力な動機(キラーコンテンツ)になることが証明されました」

データ活用は、決して冷たい効率化のためだけにあるのではありません。むしろ、一人ひとりの健康状態に寄り添い、社会との接点を作り出すための、最も温かいツールになり得るのです。

おわりに:孤独な施策から、地域共創のプラットフォームへ

インタビューの最後に、地方創生やDX(デジタルトランスフォーメーション)に挑む自治体・企業の担当者へのアドバイスを求めると、遠山氏は力強くこう答えました。

「まず、住民の方々に『知ってもらうこと』を徹底してください。良いサービスも、届かなければ意味がありません。そして、得られたデータを真摯に分析し、施策の効果を客観的に捉えること。そこからすべてが始まります」

さらに遠山氏は、組織の壁を越える重要性を強調します。 「一人で、あるいは一つの部署だけで抱え込まないでください。地域包括支援センター、シルバー人材センター、医師会、そして地元の商店街。健康を軸にすれば、必ず協力してくれるパートナーが見つかります。遠慮せずに周りを巻き込んで『仲間』を増やしていくこと。それが、地方創生という大きな山を動かす唯一の方法です」 ベスプラが描くのは、データによって個人の健康が守られ、その活動が地域経済を潤し、その収益がさらに健康を支えるという、終わりのない好循環です。テクノロジーの力で「誰もが、いつまでも、自分らしく輝ける社会」を。彼らの挑戦は、日本の地方自治体が抱える閉塞感を打ち破る、一筋の希望の光となっています。

【取材協力】株式会社べスプラ

代表の家族が認知症になった経験から「脳にいいアプリ」を開発 。認知症予防を起点に、全国の自治体で健康増進や介護予防を支援するヘルスケアサービスを展開 。データ活用と官民連携による持続可能な仕組みづくりを通じ、健康と地域経済の活性化に貢献。
企業サイト:https://bspr.co.jp/