「素晴らしい魅力があるのに、写真一枚のせいでそれが伝わっていない……」
地方の宿泊施設や不動産業界において、こうした「情報のミスマッチ」は深刻な課題です。豊かな自然、歴史ある建築、心のこもったおもてなし。それらを目に見える形にして発信しようとしたとき、立ちはだかるのは「デジタル化」と「言語」の壁です。
人手不足やデジタル人材の不在により、情報の更新が滞り、結果として機会損失やクレームを招いてしまう。そんな地方が抱える構造的な課題に対し、「伝わる未来を作り出す」という理念を掲げ、写真撮影アプリ『Byme(バイミ)』を展開するのが株式会社Tikaras(ティカラス)です。
今回は、代表取締役の大島勇飛氏に、写真が持つ圧倒的な情報量と、それを「データ」として活用することで見えてくる地方創生の新たな可能性について詳しくお話を伺いました。

株式会社Tikaras 代表取締役社長 大島勇飛氏
1.グローバルスタンダードを目の当たりにして感じた「日本の危機感」
大島氏のキャリアの原点は、日本最大手の旅行会社にあります。そこで2年目の若手時代に経験した、世界最大級のオンライン旅行代理店との協業プロジェクトが、後の起業に大きな影響を与えたといいます。
「海外のプラットフォームと仕事をして驚いたのは、彼らが『写真』を単なる画像ではなく、完全にデータとして扱っていたことです」と大島氏は振り返ります。
海外のサイト設計は、まず視覚的に施設を理解させた上でプランを提示する「ビジュアルファースト」が徹底されています。さらに驚くべきは、提供された写真をそのまま載せるのではなく、サイト全体の統一感や顧客体験を向上させるために、色合いや明るさ、構図のトーンをデータに基づいて厳密に管理・修正していた点でした。
対して、当時の日本のWeb集客は、小さな写真の横に膨大な文字情報が並ぶ「説明過多」な設計が主流。さらに、地方の宿泊施設ほど「水回りの写真をプロに撮ってもらうのはコストが見合わない」と考え、情報が欠落しているケースが散見されました。しかし、ユーザーが宿泊予約を決める際、あるいはクレームを入れる際、最も注視しているのは「言葉」ではなく、実はそうした「具体的な設備写真」だったのです。
この「発信側が伝えたいこと」と「受け手が知りたいこと」の間に横たわる大きな齟齬。これをテクノロジーとデータの力で解決できないかと考えたことが、株式会社Tikarasの原点となりました。
Byme サービス紹介
https://app-byme.com/

2.「映え」よりも「ありのまま」を。コンバージョンを生む写真の正体
株式会社Tikarasが展開する『Byme』は、誰でもプロ並みの不動産・施設写真が撮れるアプリです。しかし、大島氏が強調するのは「綺麗に撮ること」そのものが目的ではないということです。
「私たちが目指しているのは、バチバチに加工された『映える写真』ではありません。むしろ『ありのまま』を正しく伝えることです。実は、宿泊施設のクレームの多くは、事前の期待値と実態のギャップから生まれます。『枕元にコンセントがない』『ユニットバスが思いのほか狭い』といった不満は、事前にその写真が掲載されていれば発生しません。正しい情報を出すことは、不満足を減らし、結果として顧客満足度を上げることにつながるのです」
『Byme』には、カメラマンの基礎である「水平垂直」を保つための補助線や、和室ならこの角度、キッチンならこの高さで撮るべきといった画角のアシスト機能が搭載されています。これにより、現場のスタッフが誰であっても、一定のクオリティを保った「情報の詰まった写真」を量産できるようになります。
興味深いことに、Tikarasの分析データでは、プロが撮った芸術的な1枚の写真よりも、スタッフがアプリを使って撮影した「生活動線や設備がわかる10枚の写真」の方が、成約率(コンバージョン)に寄与することが分かっています。写真は「アート」ではなく、ユーザーの意思決定を助ける「判断材料としてのデータ」である。この視点の転換こそが、同社のサービスの核心です。
3.RPA活用で「デジタル人材不在」の壁を打ち破る
地方企業が抱えるもう一つの大きな壁が、デジタル化に伴う「運用工数」の問題です。
現在、宿泊施設がネット集客を行うには、複数の媒体を管理する必要があります。厄介なのは、媒体ごとに推奨される写真のサイズやアスペクト比、登録ルールが異なることです。1枚の写真を更新するために、複数の管理画面を立ち上げ、手作業でリサイズしてアップロードする……。人手不足に悩む地方の現場では、これが大きな負担となり、結局「数年前の古い写真」が放置される原因となっていました。
この課題に対し、TikarasはRPA(業務自動化)技術を導入しました。『Byme』で撮影した写真は、クラウドを通じて各媒体へ最適なサイズで自動反映されます。管理画面から一括でキャプション(説明文)も更新できるため、ITに精通した専門スタッフがいなくても、現場の隙間時間で質の高い情報発信を継続できる仕組みを構築したのです。
「地方には、デジタルツールを使いこなせる若い人材が少ないという現実があります。だからこそ、ツール側が人間に合わせる必要がある。操作を極限まで簡略化し、自動化することで、現場の負担を減らしながら売上を最大化させる。これが私たちの支援の形です」

4.データで可視化する「情報の価値」と、地方創生へのインパクト
Tikarasの支援は、ツールの提供に留まりません。コンサルティングプランである『Byme PRO』では、各媒体のアクセス数や写真のクリック率、予約経路などを詳細に分析し、戦略的なアドバイスを行っています。
「例えば、『最近、水回りに関する口コミが増えているから、ここの写真を刷新して不安を解消しましょう』といった、データに基づいた提案を日々行っています。ある地方の温泉旅館では、3名の少人数体制ながら、写真の刷新とプランの適正化を行っただけで、年間の売上が1,000万円向上しました」
また、不動産業界においてもその効果は顕著です。地方の不動産仲介店舗で『Byme』を導入したところ、ポータルサイトでのPV数が大幅に増加。写真は、物件の魅力を伝えるだけでなく、その会社の「誠実さ」を測るデータとしても機能しているのです。
こうした個別の企業の成功体験は、やがて地域全体の活性化へと波及していきます。宿泊施設の経営が安定すれば、地域での雇用が維持され、地元の食材を扱う業者や観光施設にも恩恵が行き渡ります。正しい情報が流通することで旅行者の満足度が上がり、リピーターが増える。それは長期的には「地域ブランドの価値」そのものを高めることにつながります。
現在、大島氏は自治体や観光協会との連携も視野に入れています。地域の公式情報を一斉に整備するプロジェクトや、イベントデータと宿泊在庫データを連動させた集客支援など、写真という「視覚データ」を軸にした地方創生の形は、無限の広がりを見せています。

おわりに:伝わる情報流通で、地方の「もったいない」をなくしたい
インタビューの終盤、大島氏は「地方にはまだ、光が当たっていない素晴らしいコンテンツが眠っている」と熱く語ってくれました。
「日本には、世界に誇れる文化や風景、食がたくさんあります。しかし、それを伝えるための『情報のパイプ』が詰まってしまっている状態です。私たちは、写真という非構造化データを誰もが扱える形に整えることで、その目詰まりを解消したいと考えています」
データ活用と聞くと、多くの地方企業や自治体の担当者は「自分たちには関係のない、難しいもの」と身構えてしまうかもしれません。しかし、Tikarasが提唱するデータ活用は、もっと身近で、もっと温かいものです。
それは、目の前にある素晴らしい景色や、こだわりの客室を、「ありのまま」に、そして「確実に」届けること。その積み重ねがデータとなり、経営を支え、地域を動かす力になります。
「特別な『映え』は必要ありません。まずは、皆さんが大切にしている場所の、ありのままの価値を正しく発信することから始めてみてください。写真は言葉の壁を超えます。その一枚が、まだ見ぬ誰かとの出会いを作るきっかけになるはずです」
大島氏の言葉には、テクノロジーへの信頼と、地方への深い愛情が溢れていました。株式会社Tikarasが作り出す「伝わる未来」は、日本の地方が持つ真の価値を世界へと解き放つ、大きな鍵となるに違いありません。
【取材協力】株式会社Tikaras
「伝わる未来を作り出す」を理念に、写真×テクノロジーで企業の集客支援・業務効率化を行う。主力サービスの撮影アプリ『Byme(バイミ)』は、宿泊施設や不動産業界を中心に導入が進み、専門知識なしで高品質な撮影・媒体更新の自動化を実現。データに基づいたビジュアルマーケティングの伴走支援により、地方企業の売上向上とDX推進に貢献している。
企業HP:https://tikaras.com/













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