「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「データ活用」。言葉だけはよく聞くのに、いざ自分たちの現場に置き換えると、急に遠い話に感じてしまう——地方企業や自治体の担当者には、そんな実感があるのではないでしょうか。
「うちは大企業みたいな予算がない」「データサイエンティストがいない」「そもそも、分析するほどのデータがない」。その“できない理由”は、どれも現実的です。
しかし実は、多くの組織の足元には、すでに“使えるデータ”があります。電話、メール、Webフォーム、窓口——日々寄せられる問い合わせは、ユーザーの困りごととニーズがそのまま詰まった、最も生々しい「スモールデータ」です。
例えば、ある地方公共施設では月間約400件にのぼる問い合わせ対応の“よくある質問”を、AIチャットボットの導入によって一部自動化。導入をきっかけに、想定外の質問が可視化され、Webサイトの掲載情報を見直す改善サイクルが回り始めました。
今回ご紹介するのは、Web制作会社を母体に持ち、現場で培った課題意識からAI事業を立ち上げた株式会社アノテテ。代表取締役の岸本渉氏に、AIチャットボット「Tebot(ティボット)」を通じて見えてきた「地方のDXは小さく始めるべき理由」と「問い合わせデータを資産に変える考え方」を聞きました。

株式会社アノテテ 代表取締役 岸本 渉氏
■ AIチャットボット「Tebot」とは
Tebotは、Webサイト上のチャットでユーザーの質問に答えながら、対話ログをデータとして蓄積し、改善に活かしていくためのAIチャットボットです。
■ 特徴
・社内の既存資料(サービス概要書、マニュアル等)をアップロードするだけで利用可能
・アップロードされた資料からAIが想定されるFAQを自動で生成する
・電話やフォームでは拾いにくい「小さな疑問」を可視化し、Web改善や業務改善につなげる
Tebot:https://anotete.co.jp/tebot/

1. 綺麗なWebサイトを作っても「顧客の本音」は見えてこない
「きっかけは、Webサイト制作の営業現場で感じた、ある種のもどかしさでした」
そう語る岸本氏は、元々親会社であるWeb制作会社で営業を担当していました 。多くの企業がWebサイトのリニューアルを検討する際、真っ先に出る要望は「デザインを新しくしたい」「見た目をかっこよくしたい」というものです。確かに優秀なデザイナーが入れば、見栄えの良いWebサイトは完成します。しかし、岸本氏はそこで“成果が出にくい構造”を見ていました。
「本当にお客様(クライアント)が伝えたいことは何なのか。そして、その先にいるユーザーは何を求めているのか。ここを言語化できている企業は、実は多くありません。」
例えば、企業の部長と現場担当者で、ターゲットに対する認識がズレていることも珍しくありません。感覚や経験則に頼った「属人化」した情報だけでプロジェクトが進んでしまう。結果として、見た目は綺麗でも、本当にユーザーが求めている情報が届かないサイトになってしまう。
「企業には日々、膨大なデータが存在しているはずなんです。しかし、それらは意味のある形で変換されておらず、社内のナレッジとして共有もされていない。これは非常にもったいないことだと痛感しました」
大企業であれば、専任のマーケティング部隊やデータ分析チームがリソースをかけて分析を行うことができます 。しかし、地方の中小企業に同じ体制を求めるのは現実的ではありません。
「コスト」と「スピード」、そして「人材」。この壁を乗り越え、誰でも手軽に顧客の声をデータ化し、分析できる仕組みが必要だと考えたことが、アノテテの原点です。
そこでアノテテが着目したのが、AIチャットボット「Tebot」による顧客対応の自動化とデータ蓄積でした。AIという技術の進化により、これまで大企業しか取り組めなかった高度な分析が、地方企業でも適用できるフェーズに入ったのです 。
2. 「捨てられていた声」を拾う。AIチャットボット「Tebot」が実現するデータ活用
アノテテが提供するAIチャットボット「Tebot」は、単なる問い合わせ自動回答ツールではありません。岸本氏が強調するのは、「顧客の潜在ニーズ(=データ)を収集し、可視化し、改善に回す」ための仕組みである点です。
電話やメールでは見えない「サイレントマジョリティ」の声
通常、企業への問い合わせといえば「電話」や「フォーム」が一般的です。しかし、そこに至るまでには高いハードルがあります。
- 電話するほどでもない
- フォームに個人情報を入れたくない
- 入力が面倒で、そのまま離脱してしまう
そう感じて、問い合わせをせずに離脱してしまうユーザー(サイレントマジョリティ)は想像以上に多いのです 。
「例えば、あるホテルのWebサイトを見ている人が『駐車場はあるのかな?』と思ったとします。サイト内を探しても見つからず、電話するのも面倒だから『別のホテルでいいや』と離脱してしまう。この場合、ホテル側には『なぜ予約されなかったのか』というデータは一切残りません」
ここにAIチャットボットがあればどうなるでしょうか。ユーザーは匿名で気軽に「駐車場はありますか?」と質問できます。AIが即座に回答すれば、その場で疑問が解消され、予約(コンバージョン)につながる可能性が高まります 。そして何より重要なのは、「駐車場に関する情報を探している人が多い」という事実がデータとして蓄積されることです 。
「電話やメールという既存のチャネルでは拾えなかった『小さな疑問』や『諦められていたニーズ』を拾い上げること。それがAIチャットボット「Tebot」のデータ活用の真髄です。集まった対話データを分析すれば、Webサイトのコンテンツ改善や、新たなサービス開発のヒントが明確な数値として見えてきます」
専門知識は不要。「手元にある既存資料を入れるだけ」の優しさ
「データ活用」と聞くと、難しいプログラミングや複雑な設定を想像しがちですが、アノテテのサービスはそのハードルを極限まで下げています。
「Web制作の現場にいたからこそわかりますが、ITリテラシーに不安を持つ担当者様は非常に多いです。だからこそ、専門知識がなくても使える設計にこだわりました」
使い方はシンプルです。社内の既存資料(サービス概要書やマニュアル等)をアップロードすると、ユーザーの質問に即時回答できるAIが完成します。また、アップロードした資料を元にして、想定されるよくある質問集(FAQ)も併せて自動生成してくれます。
特別なプロンプト(AIへの指示出し)の知識も不要 。直感的に使えるUI/UXは、元々デザイン会社を母体とする同社ならではの強みであり、多くの地方企業から支持される理由の一つとなっています 。
3. 導入事例に見る「成果」と「波及効果」
実際に、アノテテのサービスであるAIチャットボット「Tebot」は、地方のインフラ企業や公共施設など、問い合わせが多い現場で導入が進んでいます。
事例1:伊予鉄グループ様(愛媛県)
〜電話対応の削減と若年層へのアプローチ〜
愛媛県松山市を中心に交通・観光サービスを展開する伊予鉄グループ様では、電車の運賃や時刻に関する電話問い合わせがひっきりなしに鳴り止まない状況でした 。導入後は、電話の数が劇的に減少。特に、電話よりもチャット文化に慣れ親しんだ若い世代にとって、気軽に自己解決できる手段として定着しています 。 さらに、この成功体験をきっかけに、社内DXへの関心が高まり、現在では社内規定の問い合わせ対応や、株主総会の想定問答作成にもAI活用が広がっています 。一つの成功が、企業全体のデータ活用意識を変えた好例です。
【課題】
運賃・時刻など定型的な問い合わせ電話が多く、担当者の負荷が高かった。
【導入】
Web上の問い合わせ導線としてAIチャットボットを設置し、自己解決できる窓口を用意。
【成果】
導入後、電話の件数が劇的に減っている実感があり、特にチャット文化に慣れた若い世代が“気軽に自己解決できる手段”として利用するようになった。
【波及効果】
成功体験をきっかけに、社内規定の問い合わせ対応や、株主総会の想定問答作成など、社内業務にもAI活用が広がっている。
[Tebot導入インタビューより引用]https://anotete.co.jp/blog/chatbot_interview_casestudy003
事例2:札幌市民交流プラザ様(公共施設)
〜利用者の「知りたい」を可視化し、サイトを改善〜
札幌市民交流プラザ様では、月間約400件の問い合わせ対応を自動化しています 。導入前には予想もしなかったような質問(想定外のニーズ)が可視化されたことで、「利用者は実はこういう情報を求めていたのか」という気づきが得られました 。その分析結果を元に、Webサイトの掲載情報や発信内容を見直すというサイクルが生まれています 。「何がわからないのか」がデータとして見える化されたことで、住民サービスの質が向上したのです。
【課題】
問い合わせ対応が月間約400件にのぼり、人的負荷が大きかった。
【導入】
問い合わせの一部をAIチャットボットで自動化し、対話ログを蓄積。
【成果】
導入前には予想していなかった質問が可視化され、「利用者は何に困っているのか」「どんな情報が見つけにくいのか」が具体的に把握できるようになった。
【波及効果】
分析結果をもとに、Webサイトの掲載情報や発信内容を見直す改善サイクルが生まれ、住民サービスの質向上につながっている。
[Tebot導入インタビューより引用]https://anotete.co.jp/blog/chatbot_interview_casestudy007/
4. 地方創生 × データ活用:労働力不足という「待ったなし」の課題へ
アノテテが「地方創生」を掲げる背景には、地方が直面する深刻な「労働力不足」への危機感があります 。
「地方企業や自治体では、採用難が深刻です。例えば、『2人で電話対応していたが、1人が辞めてしまって現場が回らない』という悲鳴のような相談をいただくこともあります」
新しい人を採用し、教育して一人前にするコストは計り知れません 。しかも、せっかく育てた人材がまた流出してしまうリスクもあります。ここで重要なのが、「業務の属人化」を減らすことです 。
ベテラン社員の頭の中にしかない知識やノウハウを、AIチャットボットという「箱」に形式知として蓄積しておく 。そうすれば、誰が辞めても、誰が入ってきても、AIが均質なクオリティで回答・案内をしてくれます 。
「観光振興、農業の担い手不足、伝統産業の継承。地方特有の課題は山積みですが、その多くは『人手不足』と『ナレッジの継承』に帰結します 。AIを活用して業務を効率化し、人間は『人間にしかできない付加価値の高い仕事』に集中する。そうでなければ、地方の経済は維持できません」
Tebotの価値は、目先の効率化だけではありません。問い合わせの中に埋もれた“困りごと”をデータとして残し、組織が学習していく土台をつくる。そこに、地方でDXが進む現実解があります。
5. これからの未来と、悩める担当者へのメッセージ
最後に、今後の展望と、データ活用に足踏みしている企業へのメッセージを伺いました。
AIと「人」のハイブリッドな支援
「今後、AIモデル自体はコモディティ化(一般化)していくでしょう。誰でも高性能なAIが使える時代になります。だからこそ、差別化の鍵になるのは『その会社独自のデータ』をどう管理・運用するかです」
アノテテが目指すのは、単なるツールの提供ではありません。SaaSとしてのプロダクト提供に加え、導入企業の運用を伴走支援する「人的サポート」を組み合わせたハイブリッドな展開です 。大手テック企業には真似できない、地方企業に寄り添った泥臭い支援こそが、DX成功の鍵を握ると確信しているからです 。
まずは「小さく設計して」始めること。
これからDXやデータ活用に取り組もうとしている方へ、岸本氏はこうアドバイスします。
「DXは“ツールを入れること”ではありません。いきなり大きな戦略を描く必要はないですが、既存業務フローの中でボトルネックを見つけ、改善の目的と指標を定め、そのための手段としてツールを選ぶ。さらに、運用できるルールと体制まで整備して初めて成果が出ます。設計を飛ばしてツールだけを導入すると、現場を混乱させて終わる可能性もあります」
岸本氏が言う「小さく設計する」とは、闇雲に手を動かすことではありません。対象範囲を絞り、「設計→実装→運用→改善」を一巡させて、確かな再現性をつくること。最初から全社最適を狙う必要はない一方で、目的や運用が曖昧なままツールだけを入れるのは、DXではなく“現場混乱の原因”になりかねないといいます。
「例えば問い合わせ対応であれば、まずは『どの問い合わせがボトルネックになっているのか』『どこで情報が滞留しているのか』を可視化する。その上で、AIに任せる範囲と人が対応すべき範囲、更新の責任者、ログの扱いなどのルールを決める。Tebotは、その“設計した運用”を回しながら、対話データを改善に変えるための手段として機能します。」
いきなり新しいデータを集めようとするのではなく、日々の業務ですでに発生しているデータ(問い合わせ履歴、メールなど)に着目すること 。そこから始めて、少しずつ効果を実感し、周辺の業務へと広げていく 。
「私たちアノテテは、その最初の一歩として『問い合わせデータの活用』という領域で、皆様のお役に立てればと考えています」
【取材協力】株式会社アノテテ
「データを活用できる世界をつくることで、社会を良くしたい」をミッションに掲げ、AIチャットボットを中心としたデータ活用ソリューションを展開。リモートワーク推進や地方創生にも注力している 。










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