「現場のマネージャーは、誰が活躍しているか、誰がどのポジションに向いているか、実は感覚的にはわかっているはずなんです。でも、それをデータで説明できない。なぜなら、データがバラバラに散らばっているからです」
そう語るのは、株式会社blankpad(ブランクパッド)の代表取締役、篠﨑氏です。
人口減少、労働力不足、そして人的資本経営の開示義務化――。 今、地方企業や自治体を含むすべての組織が「人」に関する課題に直面しています。多くのリーダーが「データ活用が必要だ」と頭では理解しています。しかし、実際に手元にあるのは、使いこなせない勤怠データや、実施しただけのストレスチェックの結果だけ、というケースが後を絶ちません。
「勘と経験」による人事マネジメントは限界を迎えているのでしょうか? それとも、データ活用にはまだ見ぬ可能性があるのでしょうか?
今回は、早稲田大学との共同研究による「パーソナリティ心理学」と最先端の「AI」を掛け合わせ、組織の“納得解”を導き出すHRデータコンサルティングサービス『personapad(ペルソナパッド)』を展開する篠﨑氏に、これからの地方組織が生き残るための「データとの向き合い方」についてお話を伺いました。

株式会社blankpad 代表取締役 篠﨑健伸氏
1. 開発の背景と課題:「なんとなく」で回る組織の限界
現場の「感覚」と「データ」の間にある深い溝
長年、日本の組織は優秀なマネージャーの「勘」や「経験」によって支えられてきました。「あいつは根性があるから大丈夫だ」「この部署には、あのようなタイプが合うだろう」。そんな属人的な判断が、あながち間違いではなかった時代もあります。
しかし、篠﨑氏はその「感覚頼み」の運営に警鐘を鳴らします。
「これまでの人事領域、特に配属や抜擢においては、『前例がないから説明できない』というのが当たり前でした。なぜ自分がこの部署に配属されたのか、なぜ抜擢されたのか。受け手である従業員には、その理由がブラックボックスのままです」
明確な説明のない人事は、従業員の不満を生みます。特に、価値観が多様化し、転職が当たり前になった現代において、「会社が決めたことだから」という理屈だけでは通用しなくなっています。
「何を期待されているのかわからないまま働くと、明確な目指すべき方向性が見えず、不満が募りやすくなります。結果として、本当は活躍できたはずの人材が離職してしまう。これは企業にとって最大のリスクです」
データはある。しかし「つながっていない」
一方で、企業にはデータがないわけではありません。勤怠管理、人事評価、店舗の売上成績、エンゲージメントサーベイ……。DXの波に乗り、多くのツールが導入されています。
しかし、篠﨑氏は現状の課題についてこう指摘しています。
「現場のマネージャーは感覚で把握できているのに、人事データを集計してもその構造が見えない。評価・配置・勤怠などのデータはバラバラに存在しており、十分に活用されていないのです」
つまり、「感覚では正解がわかっているのに、データでは再現・説明できない」というギャップが、多くの組織を苦しめているのです。
既存の適性検査やサーベイを行っても、「結果が出たが、だから何なのか」で終わってしまう。篠﨑氏の言葉を借りれば、「既存のSaaSツールのような『出来合いの箱』を使うだけで解決できるほど、組織の課題は単純ではない」のです。
2. 解決策と技術:学術的根拠×AIが導き出す「納得解」
パーソナリティ心理学という「ものさし」
そこでblankpad社が開発したのが、組織の“ペルソナ像”を可視化するサービス『personapad(ペルソナパッド)』です。
このサービスの最大の特徴は、単なるデータ集計ツールではない点にあります。早稲田大学の教授(パーソナリティ心理学)との共同研究に基づいた、強固な「学術的基盤」を持っていることです。
「売上や勤怠といった数字はデータ化しやすいですが、性格や相性は見えにくいものです。私たちは、独自のパーソナリティ診断と、既存の人事データ(評価コメントや面談記録など)を組み合わせることで、その人の特性を多角的に分析します」
篠﨑氏によれば、従来のような「採用時の適性検査」をそのまま配属や育成に流用することには無理があるといいます。採用時の検査は主に「リスクを見つけて弾く(ネガティブチェック)」ために作られたものであり、「入社後にどう組織を良くするか」を考えるためのデータではないからです。
blankpad社のアプローチは、入社後の実際の評価や、上司が書いたコメントなどの「定性データ(言葉)」もAIで解析し、その人が持つ本来のパーソナリティを浮き彫りにします。
AIがデータの「通訳」になる
しかし、高度な統計分析を行っても、現場の店長や課長が理解できなければ意味がありません。ここで登場するのが「LLM(大規模言語モデル)」の力です。
「分析結果をただの図表で渡しても、『数字はわかったけど、どうすればいいの?』となってしまいます。私たちはAIを活用して、統計結果を『言葉』によるレポートとして提供しています。これにより、経営会議や現場へのフィードバックでそのまま使える形に落とし込んでいます」
例えば、「この部署では〇〇というパラメータの数値が高い人が活躍しています」と言われるより、「この部署では、変化に柔軟に対応でき、周囲との調和を重んじるタイプが、顧客満足度を高める傾向にあります」と言語化されたほうが、現場の腹落ちは圧倒的に良くなります。
AIが、難解なデータと現場の感覚をつなぐ「通訳」の役割を果たしているのです。

3. 導入効果:地方企業・多拠点展開における「距離」を超える
離れた拠点のマネジメントという課題
このアプローチは、特に地方に拠点を持つ企業や、多店舗展開を行う小売・サービス業で威力を発揮しています。
実際にツルハドラッグを運営する株式会社ツルハ様では、全店舗の管理薬剤師や本部(スーパーバイザー以上)に診断を受けていただき、初期段階として本部での相互理解や育成の文脈で活用いただいています。
同社に限らず、物理的な距離がある地方拠点では、本部と現場、あるいは上司と部下のコミュニケーションが希薄になりがちです。「月に1回しか話さない上司」が、「会ったこともない部下」を評価しなければならないケースさえあります。
「お互いのことをよく知らないままマネジメントしようとすると、すれ違いが起きます。そこで、パーソナリティデータを用いて『お互いの取扱説明書(トリセツ)』のようなものを開示し合うのです」
GAFAなどのシリコンバレー企業でも取り入れられている手法ですが、これをデータに基づいて行うことで、次のような変化が生まれます。
- 上司:「彼はこういう伝え方をするとモチベーションが上がるタイプなんだな」と理解できる。
- 部下:「上司はこういう報告を求めているんだ」とわかる。
この相互理解が、コミュニケーションコストを劇的に下げ、離職防止やエンゲージメント向上に直結します。
事例:データが見つけた「意外なリーダー」
実際に『personapad』を導入した企業では、現場の感覚を超えた発見が生まれています。 ある企業では、管理職候補の選定において、従来とは異なるタイプの人材が浮上したといいます。
「これまでは『現場で成績が良い人=管理職候補』になりがちでした。しかし、データを分析すると、現場のトップパフォーマーと、マネージャーとして活躍する人の特性は必ずしも同じではありませんでした。データ基準で見ることで、これまで候補に挙がっていなかった人物が、実は次世代リーダーとしての高い適性を持っていることが判明したのです」
声の大きい人や目立つ人だけでなく、静かに組織を支える適性を持った人材に光が当たる。これも、公平なデータ活用がもたらす恩恵の一つです。

4. 地方創生への貢献:「なぜ私がこの地方へ?」に答える
配属を「左遷」ではなく「栄転」に
地方創生という観点でも、このデータ活用は大きな意味を持っています。
若手社員が地方への転勤や配属を命じられた際、その理由が「欠員補充」だと感じれば、モチベーションは下がります。しかし、データに基づいてこう説明されたらどうでしょうか。
「君のこのパーソナリティ特性は、〇〇県の店舗が持つ顧客層やチーム文化と非常に相性が良く、君自身の成長にとっても、このようなスキルが伸びる環境だとデータが示している」
篠﨑氏はこう語ります。 「地方配属が『たまたまの配属』ではなく、『自分の特性を活かせる選択』として語れるようになる。これが大きな変化だと捉えています」
単なる人員配置ではなく、個人のキャリアと地域の特性をマッチングさせる。これが実現すれば、地方で働くことの価値が再定義され、人材の定着、ひいては地方の活性化につながっていくはずです。
blankpadが描く未来
篠﨑氏が見据えるのは、一企業の改善にとどまらない、社会全体の最適化です。
「将来的には、複数企業や地域の匿名データを統合し、『地域ごとの活躍パターン』や『業種別の人材クラスター』を横断的に分析したいと考えています」
これが実現すれば、個人は「なんとなく」ではなく、データに基づいて自分に合う地域や働き方を選べるようになります。企業や自治体は、「この地域らしい活躍人材像」を言語化し、戦略的な採用や育成が可能になります。
「人と組織のデータが整理されることで、ミスマッチによる不幸を減らし、誰もが自分らしく活躍できる社会を作りたい。それが私たちのビジョンです」
5. 読者へのメッセージ:データ活用に悩む、すべてのリーダーへ
最後に、これからデータ活用に取り組もうとしている、あるいは「うちには立派なデータなんてない」と尻込みしている地方企業や自治体の担当者へ、篠﨑氏からいただいた熱いメッセージを、ここにお届けします。
すでに「手がかり」は手元にある
「データ活用と聞くと、特別なツールや高度な人材がないと始められない、と感じる方も多いと思います。けれど実際には、すでに皆さんの手元には、評価・配置・勤怠・面談メモ・アンケートなど、多くの手がかりが散らばっています。ただ、それらがつながっておらず、現場の感覚とも結びついていない。それが多くの組織で起きていることだと感じています」
散在するデータを前にして、立ち止まる必要はないと篠﨑氏は語ります。
「私たちが大事にしているのは、最初から完璧なデータ基盤をつくることではなく、現場が日々感じている問いを、データで一緒に確かめていくことです。活躍している人にはどんな共通点があるのか。なぜ、ある拠点では人が定着し、別の拠点では離れてしまうのか。こうした問いを、感覚だけでなく、数字とパーソナリティの両面から見直していくところからでも、十分に始められます」
データは「関係性」を整える道具
データは、現場を管理するための冷たい道具ではありません。 篠﨑氏は、これからの時代におけるデータ活用の可能性をこう締めくくりました。
「人口減少や採用難が進むこれからの時代、データ活用は業績管理だけでなく、人と組織と地域の関係性を丁寧に整えていくための道具にもなりえます。私たちblankpadは、パーソナリティ心理学とAIを軸に、現場の感覚と散在するデータをつなぎ、全国の企業・自治体の皆さまと一緒に、納得感のある人材戦略と地域づくりを形にしていきたいと考えています」
「感覚」で捉えていた組織の真実を、「データ」で証明し、未来への投資に変える。 株式会社blankpadとの対話は、そんな新しい組織づくりの可能性を私たちに教えてくれました。 あなたの組織にも、まだ光が当たっていない「データ」と「人材」が眠っているかもしれません。まずは、手元にある小さな疑問から、データ活用の扉を開いてみてはいかがでしょうか。
【取材協力】株式会社blankpad(ブランクパッド)
早稲田大学教授との共同研究に基づく「パーソナリティ心理学」と「AI(大規模言語モデル)」を掛け合わせたHRデータコンサルティングを提供。組織の“暗黙知”や“活躍パターン”をデータで可視化するサービス『personapad(ペルソナパッド)』や、若手人材の転職支援事業を展開している。













4-485x273.png)




